風姿華伝書

□華伝書80
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「なぜ、女中の方が


必要なのです?」


「お前には、一生


掛かったってわかりゃ


しねぇような話だ」


「・・・ですから、それは

一体、何なのです?」


妙に、土方さんの言葉に


くってかかる、先生。


二人の間に、静かな風が流れる。


と、そこへ一・・・。


「屯所移転の話を坊主達に

きりだす際に、女っ気が


あった方が、何かと


やりやすいって話だよ。


なぁ、土方さんっ」


自室へ戻りかけていた


原田さんが、先生の首に


腕をかけつつ、事の詳細を

語りだしてしまった。


「原田・・・てめぇは」

余り、細かい内容を


知られたくなかったのか、

にこりと微笑む原田さんを

睨み付ける土方さん。


「・・何怒ってんですか?

いずれ話すつもりだったん

でしょ?」


「一・・・・・」


ついには、黙りこんでしまった。


「あの・・・、つまりは


屯所移転のお話を私にしろ

と言うことですか?」


原田さんの言葉に、唖然と

する先生を余所に、みつは

二人に尋ねる。


すると、原田さんはみつの

肩に手を乗せ、


「そういうこと。実は、


前々から、寺には屯所の


移転話がしてあったんだ。

でも、中々話が進まない


もんだから、とうとう


土方さんも強行手段に出た

ってわけさ」


と、にこやかに微笑みを浮かべた。


「・・・そうだったんですか」


みつは、目を伏せ、考え込む。


まだ、山南総長が切腹


されてから、いくらも時は

経っていない。


普通なら、せめて喪が


明けるまで先延ばしにする

べきではと忠告するのが、

得策である。


しかし一・・・。


今のみつには、ここまで


して早くこの場を離れたい

副長の思いが嫌という程、

伝わっていた。


(一・・・早く、壬生を


立ち去りたいんだ。


山南総長との思い出が、


溢れんばかりに積もって


いる、この屯所を・・・)

一・・・私のことは、


忘れてくれ・・・・・一


おそらく、今の土方さんの

頭には、この言葉が巡って

いることであろう。


一・・・・・っ・・・一


みつは決心を固めた。


「まぁ、無理にとは


言わねぇ・・・だが・・」

土方さんが、目を向けると

同時に顔を上げ、


「皆さんのお役にたてるの

でしたら、喜んでその


お役目致しますっ」


と、うれしそうに答えた。

みつはニコッと微笑んで、

土方さんを見つめる。


土方さんは、多少驚きは


したらしいが、すぐ


いつもの冷静さに戻り、


「一・・・相承知した」


と、返答した。


この様子に、原田さんも


よかったと安堵の表情を浮かべる。


一・・しかし、どうしても

納得できそうにない者が


一人・・・。


「無理ですっ!!」


と、声を上げた。


「大丈夫ですよ、先生。


きっと皆さんのことを


お認めくださるよう、


お話ししますから・・・」

みつは、先生が失敗を


恐れていると思い、口を開く。


すると、先生は思い余った

ように声を上げた。


「そうじゃないですよ。


どうせ、あなたのことです。


余計なことまで話して、


話をややこしくするのが


おちですっ」


きっぱりと、無理を


宣告する先生。


これには、さすがのみつも

腹がたったらしく、眉間に

シワを寄せ、


「そんなこと、ありません!


できますっ!!」


と、意気がった。


「いいえ、無理ですっ!」

尚も、無理だと言う先生。

「できますっ!!」


「できませんっ!!」


「っ!!!」


   ダンッ!!!


「いぃっ!!?」

そして、何度か言い合った

あげく、ついには


憤ったみつが先生の足に


思いっきり蹴りをいれる始末。


まったく、何とやらである。
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