風姿華伝書

□華伝書73
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  〈一週間後・昼〉


元治2年も、もう2月の後半。


そろそろ、梅や早咲きの 

桜が咲き乱れてくる季節と

なっていた。


壬生村・前川邸に本陣を 

構える


〈京都守護職御預新選組〉

の屯所内の白梅も、   

一つ二つと、真っ白な花を

つけだす中一・・・。


「一・・・嘆願書?」


局長室では、いつもの  

三人が腰を下ろし、   

話し合いが行われていた。

近藤局長の右隣りには   

土方副長が座っており、 

山南総長は、そんな二人の

正面に正座し、局長に  

あるモノを差し出した。


それは一・・・。


「はい。この一週間余り、

私は屯所の移転先である


〈西本願寺〉の文献を


掘り下げ、御二方に


その重要さと貴重さを


知って頂こうと、嘆願書を

作成致しました」


山南さんは、力の籠もった

眼で、局長に答える。


この一週間、山南さんは 

西本願寺の文献を


掘り下げようと、あちこち

に足を運び、自室に


籠もりっぱなしだった。


調べれば、調べる程、  

西本願寺の偉大さが、  

山南さんの心をうった。


故に、もう一度、    

この〈嘆願書〉のもと  

二人に願いでることにしたのだ。


(実に、気持ちの


いい方だ一・・・)


近藤さんは、山南さんの 

〈嘆願書〉に眼を通しつつ

思わず、手が震えるかと 

感じる程、感服していた。

この屯所移転先の問題。


土方副長と対立するのを 

わかっていながら、   

山南さんは、この文を  

局長・副長の二人に   

差し出している。


普通なら、副長と対立する

ことを恐れ、唯一副長が 

文句を言いにくい、   

局長自らに直接、密かに 

嘆願書を渡し、願い出るだろう。


しかし、山南さんは   

そういった〈裏〉の行動を

いいとはどうしても思えなかった。


一〈武士〉ならば、潔く 

〈二人〉に願い出る


べきだ一・・・一


そういう、潔白な、   

いかにも武士らしい考えが

今、局長の胸を熱くする。
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