風姿華伝書

□華伝書70
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「一・・・・・お前」


土方さんは何を思ったのか

急に正座をして、再び机に

向かった。


「・・・屯所移転の話、


進んでいないのでしょう」

「一・・・・・」


土方さんは黙った。


嫌なのだ。


「・・山南さんですか?」

自分よりも遥かに年下な 

先生に、自身の考え全てを

読まれているような


気がして・・・。


「・・・随分と、知ってる

じゃねぇか」


「・・・長い付き合いですからね」


先生は副長の背にフッと 

微笑んだ。


おそらくは、局長から  

事の次第を承っているのだろう。


土方さんは机に向かい、 

置いてある書物にスラスラ

と、筆を走らせてゆく。


「一・・・あの人は、


何でも、〈論〉で通そうと

すんだよ。だがな、人は


それだけで、動けるほど


甘いもんじゃねぇ。


特に俺たちは、旗本や


御家人とは違う烏合の衆だ。


〈規律〉がないとあっと


いうまに集団ではいられなくなる」


「一・・・でも、土方さん

にはないものを、山南さん

が持っているからこそ、


今まで、共に過ごして


きたんじゃないんですか?」


長年、この二人の関係を 

みてきている先生だから 

こそ、言えることであろう。


そんな先生の言葉に、  

照れ臭くなったのか、  

土方さんは話の話題を変えた。


「しったようなこと


言いやがって・・・。


一・・・お前の方こそ、


何か話があってここに


来たんじゃないのか?」


と、このいきなりの


切り返しに、先生は不意を

つかれ、顔を染めた。


途端に無言になる先生に 

土方さんはニヤリと微笑み

もう一つの湯呑みを手に 

取ると、静かに口へ運ぶ。

「・・・あ・・の、


土方さんは、その・・」

「一・・・・・?」


そして、しばしの後、  

先生の口から飛び出した 

言葉に、土方さんは   

目を丸くすることとなる。

その言葉とは一・・・。
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