風姿華伝書

□華伝書65
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〈数週間後・夜〉


「副長、お茶です」ガラッ

まだ、雪の残る中庭を  

横切って、副長室に足を 

運んだのは、鉄之助。


手には、お盆と緑茶の  

入った湯呑み。


スッと、障子戸を開くと 

その先に映るのは、   

鬼副長の大きな背中。


鉄之助は、その存在の 


大きさに、圧倒されてしまった。


コトンッ


副長の向かう小机に、  

湯呑みを置く。


「一・・・・・」


すると、副長は無言のまま

一気にそれを飲み干した。

そして、鉄之助の


差し出した盆に湯呑みを 

置くと、一言。


「一・・・・・まずい」


「一・・・・・」


この一言に、鉄之助の顔が

ヒクヒクと歪む。


(こんの、鬼副長一・・)

思わず、口に出しそうに 

なったが、何とかこらえ、

その場を立ち去ろうとする。


と、その時。


「一・・・市村・・」


「一・・・はい?」


副長の低く、冷たい声が 

鉄之助の背に響いた。


何だろう・・と、不安に 

かられながらも、振り返る

鉄之助。


すると、副長の口から  

驚くべき言葉が飛び出した。


「一・・・お前、明日から

総司の隊につけ」


「っえぇっ!!?」

総司の隊、つまり一番隊の

ことである。


隊の中でも、猛者達が  

数多く所属する一番隊。


そう、易々と入れるもの 

では、もちろんない。


しかし、先程、副長の口 

から出たのは、間違いなく

〈一番隊〉という言葉。


「お、俺が一番隊にっ?」

うれしすぎて、口と体が 

うまく合わない鉄之助。


「一・・・何度も言わすな

お前も、そろそろ実践に


つけても、いい時期だろう」


副長は、一向に鉄之助を 

見ようとはしないものの、

何やら、微笑んでいるらしかった。


「ありがとうございます!」


「一・・・ただし」


喜びに浸る鉄之助に、  

一言、忠告を入れる。


「組長、つまり総司の


指示には決して背くなよ。

配属とはいっても、


〈仮〉だからな一・・・」

「はいっ!」


その後、鉄之助は何とも 

いえぬ喜びの顔をし、  

鬼副長の部屋を立ち去っていった。




しばしの間。


 トタタタタタッ!!!


(一・・・・・来る・・)

縁側を走る足音が、


聞こえてくると同時に、 

書面をしたためる副長の 

手がピタリッと止まった。

その刹那。


バタンッ!!


思いっきり、障子戸を  

開いて、副長室に


駆け込んできた人物は・・。


「土方さんっ!!!」


「うるせぇ、もう少し、


静かに入ってこれねぇのか」


現れたのは、沖田先生。


戸を閉めると副長の後ろに

ドタッと腰をおろした。


「そんなことよりっ!


どうして、鉄之助君を


一番隊に、入れたんですかっ!?


あの子には、まだ


早すぎますっ!!」


この言葉に、副長は軽く 

微笑むと、振り返り様、 

「ほぅ、嫌か?


ガキの世話は、お前の


得意分野だろう?」


「一・・・そんなっ!


一・・・・・っ」


ググッと、副長の言葉に 

押される、先生。


バタンッ!!!


ついには、何の返事も  

返さず、障子戸を力強く 

閉め、出ていってしまった。


(一・・・・・ったく、


ガキが・・・・・)


と、副長が思ったのは  

鉄之助か、それとも   

沖田先生だったのか・・。
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