短篇集

□新年記念話
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皆様。新年あけましておめでとうございます!!


こちらには、新年を祝い


ちょっとした短編話を置いております。






   《羽根つき》


一・・・陽が差している。

昨夜の大晦日から、今朝に

かけて、舞った綿雪が


水滴へと姿を変え、


キラキラと朝日に輝きを


放っている。


まるで、金剛石のような


・・とは少々、言い過ぎ


かもしれないが、季節の


流れに敏感な俳人辺りなら

過言どころか本気で、


金剛の・・と詠むであろう。






一・・・京の、底冷え。


という言葉が、ある。


その言葉が示すように、


さる、寅年の元旦、京は


足の指先から凍りつく


ような寒さに包まれていた。


例えるなら一・・・・そう

指先の裏を細い針で


ツンツンと、突かれてでも

いるような一・・・・・。

極寒とはまた種の異なった

《さむさ》であった。


陽は辛うじて、天へと


上りはしたものの、少し


でも気を抜けば、あわや


雪雲へ覆い隠される始末。

溜息と共に、吐き出された

吐息が白く染まる頃合い


にはすでに、見上げた空は

水墨画のように霞んでいた。


   ザリッザリッ


そんな空の下を一・・・・

(うぅ、寒い・・・・・)


苦い顔付きで歩む者が、一人。


雪が溶けた後で、


ぬかるんだ小路へ下駄跡を

残しつつ、


   クシュンッ


くしゃみに身をよじった


のは、最近、新選組の女中

を勤め始めたばかりの、
みつ。


『お醤油、買ってきて』


今朝方。


おせちに使う醤油が切れた

と、同じく女中を努める


優に頼まれ、買い出しへ


出ていたのである。


(すっかり遅くなっちゃった。


まさか、店方が昼から開く

なんて思ってもなかったから)


・・・この時代。


いくら稼ぎ時と言えど


元旦の朝から店を開ける


者は、略、いないに等しかった。


1日までの間、つまり


年末が最も商人達にとって

忙しい時分であったからである。


常連や取引先への挨拶回り

に始まり、奉公人達の帰省

とどのつまりには、ツケの

たまった客への掛け取りが

待っている。


休んでいられる暇は、ない。


それ故、元旦から店方を


開ける者はほとんどなく


大体、元旦の昼過ぎからか

2日か3日辺りが相場であった。


(早く一・・・帰らなきゃ)

醤油の入った壺を手にした

みつの足取りが、一段と


早まってゆく。


そのすぐ横を、様々な


色合いに描かれた凧を


抱えた幼子達が駆け抜けていった。


思わず、フッと頬が緩んだ

みつであったが、元旦の


路は、人も多いが荷車や


牛馬も多い。


つい、人や車にぶつかり


なりながらも、尚、みつの

足取りは止むことがなかった。






一・・・そして。


「・・・あれ・・・?」


やっとのことで、五條の


前川家まで戻ってきた時であった。


大きな門横に、これまた


大きな存在感の門松を


飾り付けた前川家から


トボトボと小さな二つの


人影が、こちらへと歩み


寄ってくる。


・・・と、同時に霞んだ


雲が割け、水分を多く


含んだ空気が優しい薄紅へ

染まっていった。


路横にできた水溜まりが


不安気なその表情を


映しだし一・・・・・・。

「っ、為坊勇坊っ?」


駆け出したみつの瞳に


半分、泣きぶくれた為三郎

の顔が映った。


「あ、みつ姉ちゃ・・・」

見ると一・・・・・・


「どっ、どうしたの?


その、頬・・・・・っ」


「お、沖田はんにぃ・・」

為三郎の小さな両頬に


墨で二重丸が、描かれている。


「っ、沖田先生?そんな、

あんなに子供好きな先生が

まさか一・・・・・・・」

「でもぉ、《羽つき》は


勝負事やからてぇ・・・」

「羽つき一・・・よし!


わかった!為坊勇坊大丈夫

私が仇を取ってあげるっ」

すると、みつは理由を聞く

なり、持っていた紐で長い

袖をたくし上げると醤油壺

を勇之助へ預け、意気揚々

と門を潜り抜けていった。

「え、ちょ、みつ姉ちゃんっ?」


「沖田先生!!覚悟!!!」










仁王立ちで、叫んだ。


「・・・へ・・・?」


見ると、玄関先の小さな庭

で沖田先生を始め、原田・

永倉・藤堂さんら三人の


姿と共に、斎藤さんの姿もある。


すぐそばで、杵を振り上げ

る藤堂さんが立つ様子から

して、どうやら餅つきの


真っ只中だったらしい。


「どうしたの?みっちゃん

そんな険しい顔して」


慌てて、藤堂さんが声を


かけたが


「っ、沖田先生!!」


みつは返答どころか寧ろ


表情を濁した。


その足元で、名もない野華

が露に、頭を上下する。


「いくら勝負事だからって

為坊勇坊を泣かせるなんて

大人気ないじゃないですかっ!」


「え、みつさ一・・・・」

「原田先生!その、羽子板

と羽、貸してくださいっ。

沖田先生、いざ尋常に


勝負っ!!!」


最後には、原田さんの手に

していた羽子板と羽を受け

とり、ビシィッ!と先生へ

宣戦布告した。


「一・・・・・・。


良いんですか?」


これにはさすがの先生も


受けずにはいられない。


一度は、玄関先に置いた


羽子板を手に取り、


「《左手》で・・・受けて

差し上げますよ」


と、微笑んだ。


「どうぞ。御好きな用に


してくださいませ」


言いつつ、みつは羽を


高々と舞いあげた。


    カンッ!


乾いた音がして、羽が


空を飛んでゆく。


「それっ!」


    カンッ


先生は《左手》で打ち返す。


流石に、左手でやる程で


あるからして、相当


慣れているらしい。


白息が、澄んだ空へ混じり

ゆく中。


幾度となく、二人の


打ち合いが続いた。


しばしの後。


    ダンッ!


「っ、あ一・・・・っ!」

先生の討った羽が、大きく

みつの後ろへと、それた。

みつは足を踏ん張り、


何とか羽子板を伸ばし


打ち返そうとする。


その場にいた誰もが、直感していた。


 一みつが、負ける一






   バシィッ!!


「っ、え一・・・・・っ」

羽が、風をまとい空を切った。


皆、その時何が起こった


のかわからず、只、瞳を


丸くする他、なかった。


「どうです?先生一・・」

何と、にこりと笑顔なのはみつ。


羽は、先生の真ん前に倒れていた。


「嘘だろ一・・・」


思わず、永倉さんの口から

溜息ともとれる言葉が


零れ落ちていった。






一・・・後。


三回勝負の内、沖田先生は

三本ともみつに取られ完敗。


「すみませんでしたって、

みつさん。堪忍して


くださいよぉ」(涙)

「成りません」(笑顔)


半泣きの沖田先生の頬には

三本の髭、額には寅年に


因んだ《トラ》文字が


記されたという。






駄文、失礼しました。(礼)

新年、明けましておめでとうございます!!


今年もどうぞ、宜しくお願い申し上げます!!!

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