短篇集

□5月11日企画小説
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*現代版・風姿華伝書*



一・・・時は、幕末を越え

現代へと移り・・・・・一





一私立・風華高等学校前一

「一・・・わぁ・・・」


春のうたた寝を誘う、


生暖かい風が七分咲きの


櫻を散らしている。


ザワッとした風に揺られ、

一枚、また一枚と一・・。

「一・・・よしっ」


そんな春の陽気漂う中、


私立・風華高等学校の


門を気合いと共に潜り抜け

校舎へと向かう、一人の


学生の姿があった。


すでに、朝の授業は


始まっているらしく


辺りには人っ子一人いない。


しん・・・とした空気の


中をただ、整然と櫻並木が

校舎へと続いている。


その下を、キョロキョロと

辺りを見回しつつ、


歩いて行く一・・・。


実は、この学生。


いわゆる、<転校生>という

やつである。


最近、この辺りにできた


新しい街に引っ越してきた

者で、名前は


   岡本 みつ。


伸びてきた髪をみつあみに

結い、真新しそうな制服に

身を包んでいる。


顔つきが、妙に引きつって

いるのは、新しい学校での

生活を考え、緊張している

からなのだろう。


何せ、担任や校長以外の


者達に、顔を見せるのは


今日が初めてのことなのだ。


考えることと言えば、


(新しい人達の中で、


ちゃんと、やっていける


のかな?)


そんなことばかり。


「・・・ん?あれは・・」

と、ふいにある物がみつの

視界に入ってきた。


重々しい木造建築の建物。

よく見渡せど、見渡せど


生徒達が学ぶ、校舎には


到底見えない。


みつは、腕時計に目をやり

予定の時間までに余裕が


あることを確認すると、


その建物の中へと足を


踏み入れていった一・・。

中はしん・・としていて


重々しい空気を醸し出している。


しかし、そんなものを


感じる以前に、みつは


ある光景に目を奪われていた。


「こ・・これ、全部


竹刀一・・・っ?」


壁という壁一面に、剣道で

使うと思われる竹刀や面が

所狭しと掛けられていたのだ。


また、よく目を凝らせば、

奥に二本の豪華な掛け軸を

見ることもできる。


その内の一つには、


<全国制覇>と大きな文字が

掲げられていた。


(剣道部があることは、


聞かされてたけど


まさか、こんなに大きな部

だったなんて・・・・・)

みつは、どこの学校にも


ありそうな小さな部の


ように、この学校の


剣道部を考えていたらしい。


思わず、靴を脱ぎ中へ


入ると、そのまま壁に


かけられた竹刀へと手を


伸ばした。


と、その時一・・・・・。

「っ、誰だっ!!?」


バタンッと出入口の戸が


いきなり、開かれたかと


思うと、突然怒鳴り声が


響き渡った。


「っ、わわっ、はいっ!」

急に後ろから怒鳴られた


みつはビクッと身を縮ませ

声の方へ振り返ると


一歩、飛び後ろへ下がった。


すると、案の定。


ガタタッという、嫌な音と

共に、壁に掛けられていた

竹刀や防具などが一気に


みつへと降り注いできた。

「危ないっ一・・・」


 ドダダッ ダダンッ


   バタンッ!!!
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