短篇集

□お題
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    *お題*


02.朱い番傘くるりとかえして


    ある夜。


    ザーッ


朝からしきりに降り続く 

雨の中、みつは八木家へ 

戻ろうと、足早に前川邸の

門をくぐっていた。


女中の仕事が長引いて  

しまい、すでに時は深夜を

むかえている。


早く、横になりたい一・・

と思い、みつは向かい側の

八木家の門に入りかけた。

すると一・・・。


バシャバシャと、雨の中 

走る音が、みつの耳に届いた。


何となく、気に掛かった 

みつは、眼をこらし、  

闇の中、その人影を待つ。

そして、赤い番傘にあたる

雨粒が一層激しくなる中、

「・・・っ、沖田先生っ」

姿を現したのは、何と沖田先生。


もうとっくに、


寝てしまったものと思って

いたみつは、驚きつつ


立ち止まった先生に   

走りよっていった。


「一・・・まだ、


起きていたのですか・・」

そして、一言つぶやいた 

先生の姿を見たとき、  

みつは、言葉を飲み込んだ。


びっしょりと雨粒に濡れた

先生の顔、着物には   

闇夜でもわかる程の、   

血にそまっていたのだ。


局長の判断故の、暗殺を 

うけたに違いなかった。


「一・・・人を、斬ったのですか?」


「一・・・・・」


みつの問いに先生は答えない。


いや、答えれないのだ。


詳細を、知られるわけには

いかない。


もし、みつが何かしらの 

事実を知れば、先生は  

みつを斬らねばならなくなる。


それは一・・・・・。


「一・・・恐いですか?」

答える代わりに、先生は 

みつへ尋ねた。


人を斬る人間は、恐ろしい

か一・・・?と。


鬼の宿る自分を、    

あなたは一・・・。


「いいえっ。恐くはありません」


「え一・・・・・」


しかし、みつは微笑んでいた。


「一・・・先生の、


ご無事を祈り続けることの

方が、私は、予程、


恐ろしいです」


「一・・・・・っ」


一大丈夫、きっと無事に 

帰ってくる一・・・一


そうやって、信じること 

だけしか、できない時の 

方が一・・・。


先生は言葉を失った。


こんな自分にも、無事を 

祈ってくれる人が


いてくれたのか一・・・。

そのことが、何より   

身に染みて、先生の心を 

あたためた。


「・・・そのままでは


風邪をひきます。お風呂は

沸いていますから、早く


お入りになってください」

手に持っていた赤色の番傘

を先生に手渡し、みつは


八木家の門へと入ってゆく。


「一・・・・・」


一層、雨がはげしくなった。


決して届かぬ想いを   

雨粒に乗せて一・・・。


※お題サイト・xxx-titles
様より、お題を

お借り致しました。


*初めて、お題を書かせて
頂いたので、不具合など

ございましたらすみません。

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