短篇集

□一周年記念・短篇
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 ◇一周年記念短篇◇


「一・・・ん・・・」


一・・・君の名前は・・?

ある夜。


新選組・屯所の一室で  

一番隊組長である


沖田先生は、ある夢を見ていた。


それは、遠い日の記憶・・。





まだ、先生が惣次郎と  

名乗り、皆と共に江戸で 

暮らしていた頃一・・・。

 えいっ!おぉぉっ!!


季節は、ちょうど


春をむかえており、鶯の 

鳴り声が高らかに響く中、

その日、惣次郎は皆に  

黙って一人稽古にはげんでいた。


そこは、小さな河の土手の

ような場所で、春になると

一面に黄色い菜の花を


咲かせる、惣次郎の秘密の場所。


土手故に、人は来ず、  

申し分ない広さがあり、  

すぐ近くには、緑の葉を 

茂らした大木による、  

木陰まである。


剣の修業のみならず、  

いつまでいてもあきない 

惣次郎一押しの場所であった。


「休憩しよう」


しばらく木刀を振るった後

惣次郎は休もうと、大木の

木陰に身を傾かせた。


ザワッと気持ちいい風が 

辺りを吹き抜け、惣次郎の

短い髪を揺らす。


その、あまりの気持ちよさ

に、惣次郎はニコッと微笑んでいた。


若干、十を過ぎた辺りの 

子供である。


何でもないはずの、   

こんなことが、うれしくて

仕方がないのであろう。


すると一・・・。


   ゴツンッ!


「っ、痛ぁっ!?」


木陰に寝転んでいた   

惣次郎の頭に、上から何か

が、降ってきた。


痛さをこらえ、眼をこらす

と、どうやら落ちて


きたのは


「え・・・これ、柿?」


丸々とした、柿。


あれ?この木は柿の木じゃ

ないはず一・・・と思った

その時。


「返せっ!」


突然、怒鳴り声が聞こえた

かと思うと、大木の枝から

スタッと惣次郎の目の前に

舞い降りてきたのは・・。

(え・・男の子・・・?)

髪が短く、眼のキリリと 

した子供・・・。


大きな眼で、惣次郎を  

ギロッと睨み付けている。

「この柿、君の・・・?」

惣次郎は、その原因が柿に

あることを悟ると、


柿を差し出した。


子供は柿を受け取ろうと 

手をのばす。


すると、何やら腕から血が

流れていることに気付いた。


「ちょっと待って、君、


怪我してるよ」


返しかけた柿を地面に置き

惣次郎は、懐から手拭いを

取り出し、血のでている 

腕に巻き付けてやった。

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