風姿華伝書

□華伝書39
1ページ/6ページ

一体、何があったと、  

いうのだろう一・・・?


父上とは一・・・。


先生は、みつの言葉に、 

思考を働かせ、考える。


しかし、いくら、先生が 

思考を働かせたところで 

それは、ただの推測に  

過ぎず、みつの本当の  

過去、とはならない一・・。


「あの子、優しい子だから

また、悩んでるんでは


ないかと、心配で・・・。

だから、先生なら、何か 

ご存じではと、


思ったんですけど・・・」

「一・・・すみません」


先生は、口を閉ざす。


「あっ、いいんです。


ご存じでないなら・・。


ただ一・・・」


すると、優は、言葉を濁した。


「・・よく考えたら、


私たち、あまりにも


みっちゃんのこと、何も


知らなさ過ぎてませんか?」


その問いに、先生は   

何も、言えなかった。


いや、できなかった。


一何も、知らない一・・一

まるで、心に、さわやかな

一陣の風が、吹きわたった

かのように、先生の心へ 

優の言葉が、染み込んでゆく。


私は、何か、とても大事な

ことを、見落として


いたのかも、しれない。


声が、でなかった間なら 

まだしも、もし、あの時 

近藤局長がみつの正体を 

当てなければ、武家の娘 

だったことだけでなく、 

名字すら、先生を含め、 

皆、知らないままであった

ことだろう。


そして、みつは、いつも


自身のことを  


語るよりも、何よりも  

むしろ、人の気持ちを  

わかってやろうとしていた。


先生のことも、     

鉄之助のことも、優のこと

も、そう、皆の気持ち  

一つ、一つを一・・・。


しかし、その優しさの  

後ろに、見え隠れしていた

のは、みつの過去一・・。

おそらく、暗く、深く、 

閉じ込めて置きたい程の、

もう、二度と、


思い出したくない、程の。

一己の、過去一・・・一


逆に言えば、そういう


過去があったからこそ、 

みつは、先生の誠の姿を 

見いだせたのかも、しれない。


先生の抱えていた〈もの〉

と、同じくらいの〈もの〉

を、自身にもって


いたからこそ一・・・。


「みっちゃんは、自分の


ことを何も、話さないから

己の中に全て、抱え込んでしまうのだと思うんです」


「一・・・・・」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ