風姿華伝書

□華伝書38
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今、みつの眼に映っている

のは、先生達が、入って 

いった家ではない。


それは、十数年前まで、 

実際に、みつ達〈岡本家〉

だった家一・・・。


だが、幼いみつが、泣き 

叫びながら、父を呼ぶ前に

広がっているのは、


真っ赤な炎に包まれている

無残な家の姿一・・・。


そして、顔を涙で一杯に 

した幼いみつは、叫ぶ・・。


一父上ぇっ、      

  父上ぇっー!!!一


叫ぶのに、声が枯れるまで

家族の名を、呼ぶのに・・。


一ついに、誰も、その声に

答えることは、なかった一

残されたのは、まだ幼い 

みつ、ただ一人一・・・。



「な・・んで、


新選組の人が、助けて


くれはりますのん?皆、


人斬り・・・やて・・。


なのに、なんで・・・?」

夫人の、この言葉に、  

ハッと我に返った、みつ。

そして、夫人の肩に優しく

手を置き、目線を合わせ


ながら、微笑んだ。


「あの方達は・・・。


新選組の人達は、決して


人を斬ることを好む、


人斬りなんかじゃ、ありません。


京の治安や人々を守る


ために、鬼と呼ばれても、

嫌な顔一つしないで、  

がんばっている、


ちゃんとした〈人間〉、 

なんです一・・・」


「一・・・っ」


夫人は、泣き顔のまま、 

驚き、みつを見つめた。


ドガガッ!ドーンッ!!


「一・・・っ!」


と、その時。      

燃え尽き、炭となって  

しまった家の柱が、   

大きな音とともに、勢い 

よく、崩れていった。


(沖田先生っ、先生方っ)

先生達を、信じている  

みつだが、今回の相手は火。


刀ではない。      

そう、考えると、どんどん

不安に、なってゆく。


「おい。あの人ら、


大丈夫なんやろか・・?」

「さぁ・・・。でも、


新選組やし、別に・・・」

「一・・・っ」


周りの火事見物の人々の 

声が、心に、突き刺さる。

なんで、なんで、わかって

くれないのだろう一・・。

 一どうして一・・・一


ガララッ!ザッ、ザッ、 

「あ、あれ一・・・」


「一・・・えっ」


夫人の声に、みつは視線を

家へ向ける。


「一・・・あっ!」
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