風姿華伝書

□華伝書35
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その頃。


沖田先生は、というと・・。


早朝だと言うのに、   

もうすでに、部屋には  

おらず、稽古着に着替え、

中庭で木刀を振るっていた。


ケガの方は一・・というと

浅傷だったのか、    

もうほとんど、痛みはなく

熱も下がっていた。


しかし、近藤局長の命で、

大事をとって休んでいるのだ。


と、そこへ一・・・。


「一・・・木刀が、


傾いているよ」


「一・・・あっ。


おはようございます、


山南さん」


先生は、木刀を振るう手を

止め、山南さんへ顔を向ける。


「・・昔から、その癖は、

変わらないね、総司」


山南さんは、ニコッと  

ほほえむ。


「はい、すみません。


隊士達に、剣術を教える


はずの指導者なのに、


こんなんじゃ、お話に


なりませんよね・・・」


先生も、笑って返答すると

また、素振りをはじめる。

「いや・・・いいんじゃ、

ないかな。ずっと、


変わらずに、ありつづける

・・というものが、


あるのは・・・」


山南さんは、少し下を向き

ポツリと、そうつぶやいた。


それは、剣術のことに  

対して、ではない一・・。

(・・土方さんの、


ことなんだろうな一・・)

先生は、木刀を


振るいながら、そう推測する。


土方副長は、浪士組に  

加わることに、決めた頃 

から、変わった。


それまで、


〈トシ〉・〈かっちゃん〉

と、呼び合う間柄だった 

のを、


〈土方君〉・〈近藤さん〉

と、半ば、無理矢理に  

改めてしまった程だ。


「武士になるってぇのに、

その呼び方は、好ましくねぇ」


きっと、この頃から   

なのだろう。


一自分達は、もう百姓では

なく、誠の武士に    

なるのだ一・・・一


と、土方副長が、


意識し始めたのは。
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