風姿華伝書

□華伝書31
1ページ/6ページ

「一・・・いったい、


敵は、どの旅籠で密会を


開いているのだろうか」


と、局長が悩むのも、無理はない。


当時、京には大勢の倒幕派や勤王派の


浪士たちが集まっており、密会を  


開きそうな場所は、数多く存在していた。


「俺は、木屋町通り・・・


付近と読んでる」


そう、土方副長は自信ありげに、口を開く。


局長はフゥッと、少し笑みを浮かべた。


「確かに、木屋町通りの


辺りには、四国屋や小川亭


など、志士たちがよく使う


旅籠や料理屋が多いが・・。


―・・・それは、


〈勘〉ってやつか?トシ」


すると、土方副長は   


「あぁっ、この〈勘〉は


当たってるような気がするぜっ」


と、微笑んだ。


「しかし、私は


縄手通りも・・・と思って


ならんのだ。あの辺りも、


お茶屋や旅籠が、多い」


この考えも、あながち間違いではない。


局長は、ん……と、腕組みをした


まま、会津藩との待ち合わせ時間


ギリギリまで、考え続けた。


   木屋町・・・。     


         縄手。


頭の中で、グルグルと  


その言葉が、回り続ける。


するとそんな局長の状態を見兼ねてか   

土方副長が話を切り出した。


「逆にする、ってぇのはどうだ?」


「―・・・逆?」


思わず、下を向いていた 


局長は、横に座っている土方副長の顔を見た。


「可能性からいって木屋町と縄手の、


どちらかだろう。なら、


局長は、木屋町通り


俺は、縄手通りを行けば、


気にならずに行けるだろう?


なぁに、きっと、どちらかが


―・・・当たりさ」


土方副長は、鬼の顔でフッと笑う。


この人は、いつも、戦となると、


恐れよりも楽しさが一番に、出てくる質らしい。


きっと、幼い頃からケンカに


明け暮れていた結果だろう。


十数年たった今ではケンカどころか、


戦の神とまで言える、  


人材になってしまっている。


「逆にするのは、いいがトシ。


敵は、どう少なく見積もっても、三十数名。


今、我等が動かせるのは


この場にいる、三十四名だけだぞ。


二手にわけて果たして、勝てるかどうか・・」


局長は、いつにもまして、


不安そうな顔つきになった。


できれば、死者は出したくない。


そう、思っていた。


「初めから、敗けること


考えて、どうすんだよっ。


―・・・そうだな。


沖田、永倉、藤堂―・・を


中心とした十名を近藤隊。


俺の隊には、残りの二十四名をつかせる。


一・・・これで、どうだ?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ