風姿華伝書

□華伝書101
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一・・・もう、二度と貴様

《鬼》の力は借りない一


『一・・・・・・っ。


・・・・・・いいのか?』

『一・・・えぇ。もう・・

私の知らない内に、私が


人を斬っているなんて


現実は・・・御免被り


ますから一・・・・・・』





一・・・そこで、夢路は


途絶えた。


「一・・・・・生?


沖田先生っ?」


という、障子戸越しからの

隊士の呼び掛けにハッと


夢路から醒め、布団から


跳ね起きたのである。


「一・・・朝食の仕度が


できておりますので


お声をかけに参りました。

大丈夫ですか?何度か


お呼びしたのですが・・」

「え・・・ぇ。すみません

すぐ、行きます」


とは、答えてみたものの


今だ、肩の小刻みな震えは

止まず、冷や汗に体温を


奪われ、実際には布団から

起き上がる気力さえ、


しばらくの間、持てない


有様であった。


首をかしげながら、部屋の

前を隊士が去っていった


後も、大きく息をはくと


力が抜けたように再び


布団へと崩れていった。


(《夢》・・・だったのか)

一・・・せ・・・・・・一

「一・・・・・・・っ」


ふと、夢路に斬ったみつの

表情が頭に浮かぶ。


夢路から醒めた今でも


抱いていた体から温かみが

消えていく感覚を手が


覚えている程、現実を


帯びた夢路に、思わず


先生は顔を覆う。


その心中では・・・・夢で

よかったと心から安心する

気持ちと一・・・・・・・

正夢にならぬことだけを


ひたすらに念ずる気持ちと

が、交錯し、先生の心に


深い陰りを落としていた。
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