風姿華伝書

□華伝書101
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    斬ッ!!!


鮮血が、舞った。


静かに、そして儚く・・。

挿し絵です。


『・・・せ一・・・・・』

傾きゆく、みつの口から


虫の息程に弱々しい言葉が

ホロリと零れ落ちていった。


『一・・み・・・・・っ』

その瞳からは、一雫の


     涙一・・・・。

『・・・みつ・・・・さ』

一・・・《私が》・・・一

    ドタンッ!


一私が・・・《斬った》。

<あの時>と、同じように一

みつの朱に染まりながら


先生は、己のおかした


所業が信じられず、


立ち尽くす他、なかった。

一・・・《私》が!!!一

『っ、みつさん!!!


みつさんっ!!』


一・・・しかし。


ふと、糸がきれたかの


ように力なく膝をおとすと

朱海へと崩れていった


みつを抱き上げ、その声が

枯れはてるまで名を呼び続けた。


『・・っ、みつさん!!』

[お願いだから、眼を・・

瞳を、開いてください!]

『眼を・・開いてください

・・・みつさんっ!!!』

一・・・どうして・・・・

・・・どうして、こんな。

こんな、ことに一・・っ一




『一・・・何言ってるんです?』


挿し絵です。


『一・・・っ・・!!?』

ひたすら、名を呼び続ける

先生の背から突如、


聞こえてきたのは覚えの


ある声。


その声にビクッと身を


震わせた先生は、座り


こんだまま、恐る恐る


己の後ろを振り返る。


[・・・この・・声・・・

一・・・まさか・・・っ]

『一・・・あなたが


望んだのは、私・鬼


《最強の力》でしょう?』

『一・・・っ!!!』


振り返った、その先・・・

そこに立っていたのは


幼い頃の《己・宗次郎》の姿。


驚きの余り、言葉も出ない

先生の様子に、ニヤニヤと

刀を肩にかけ、冷たく


微笑みが零れていく一・・。


『っ、その姿一・・・っ』

その刹那。


先生の瞳がギロリと


宗次郎を睨み付けた。


先程まで暗闇故、


わからなかったその姿は


もとの着物の色さえ判別


つかぬ程に、朱に濡れ


顔、大刀からも朱が滴り


落ちていたのである。


睨みつければつける程


鬼へと化している宗次郎の

表情はニヤついていく。


『一・・・そうだよ。


お察しの通り、この場に


転がってる者達は皆、


私が《斬った》一・・・。

お前の抱えてる人間


以外一・・・・・はね』


『一・・・・・っ!!』


フフッと、さも嬉しそうに

高笑いさえする幼なき己の

姿に、先生の手がスッと


大刀へ、のびてゆく。


一・・・すると。


『なぜ・・・・・怒る?』

先程まで、微笑んでいた


宗次郎の表情が一気に


凍える月の如く冷たくなっていった。


『ずっと一・・・欲して


いたんだろう?


私・鬼《最強の力》を・・。


だから、私をせき止める


《邪魔な存在》を消した


ただ、それだけのこと。


これで、お前は思う存分に

私・鬼《最強の力》を使える。


すべては、<あの日>・・・

《誰よりも強くありたい》

と願ったお前の一・・・』

『一・・・・・・ない』


突然。


宗次郎の言葉にうつむく


先生の低い声が重なる。


そして、今までに誰にも


見せたことのない程の


《殺気》に塗れた瞳で


ギロッと宗次郎・鬼の瞳を貫いた。


と、同時に宗次郎の声が
止まる。


先生は、肩を震わせ


ピクリともしないみつを


抱きつつ、この世のもの


とは思えない程の低い声で

一言、口を開いた。


本当なら、刀を抜き


《己》の弱き心共々


葬りさってやりたいところ

であろう。


しかし一・・・その胸の内

には、以前聞いた、みつの

声がひたすらに巡っていた。


【・・・《認めてあげて》

ください。例え、どんなに

憎い心でも、先生の中から

生まれ出でた以上、先生の

《心の一部》には


変わりないのですから】


挿し絵です。


『一・・・あなた《鬼》は

私の弱い心が生んだ産物。

だから、決して消せない


ものだということは・・・

わかっています。でも・・

一・・・でも、私の命


ある限り、もう、二度と


・・・《貴様・鬼》の・・

《最強の力》は借りない。

私が一・・・欲したもの


《力》はそんなもの


《最強の力》なんかじゃない。


私は一・・《護れる力》が

欲しかった。<家族>を・・

<仲間>を・・・そして・・

・・・<大切に想う人>


一人くらい、護りぬける


ような《力》を一・・・』

『一・・・・・・っ!』
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