風姿華伝書

□華伝書98
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「いいか、俺が二人を


連れてくるっ。それまで


ここを離れるんじゃねぇぞっ」


その言葉に一番上の兄が


ゆっくりとうなずく。


原田さんはまさの弟達を


火の気の少ない場へ連れて

ゆき、三人が落ち着いた


頃合いを見計らって


再び、火の手の上がった


家の中へと向かっていった。


崩れた玄関先を避け


唯一火の手の穏やかな


中庭から真っ赤な炎上がる

中森家(まさ宅)へ足を


踏み入れていく。


ポロポロと夜風に乗って


火の粉が舞い、至る所から

次々と炎柱がたった。


まさの名を叫びながら


原田さんはドンドン家の


奥へと進んでいく。


倒れ炭となった柱を


踏み越え、燃える畳を


踏み越え、辿り着いた


その先家の一番奥の部屋で

見た光景は一・・・・・。

「まさっ。私のことは


もういいさかい。早ぅ


逃げてっ!!」


「一・・・そんなことっ!

母をおいて先に逃げる


なんてっ、天の父上に


申し訳がたたしまへん!!

さっ、早よぅ背に乗って」

今にも炎に包まれてしまい

そうな状況下の中、必死に

病の母を外へ運びだそうと

手を尽くす、まさの姿。


私はいいからと、弱気に


なる母を何とか勇気づけている。


「まさっ!!!」ダダッ


「え、は、原田はん!?」

原田さんはその二人の姿に

居ても立ってもいられず、

火の粉を被っていることも

忘れ、二人のもとへと


駆け寄っていった。


そして、病で動けぬ


まさの母の手を己の背に


かけさせ


「どうしてここへっ!?」

と、驚くまさへ言葉も


返さぬまま、母をおぶり


火の手の及ばぬ中庭へ運び

出そうとした。


一・・・・・だが・・・。

   ドガガッ!!!


「一・・・・・っ!!!」

   ガララッ!!!


「っ、まさっ!!!


原田はんっ!!!」


「っ、母う一・・・・っ」

突然。


燃え尽きた大きな柱が


三人の上へ倒れかかり


その刹那一・・・・・・・

  ドンッ!!!!!


咄嗟の機転で、まさの母は

娘と原田さんの背中を押し

力のまま、中庭へと弾き飛ばした。


ドタタッ!!と音をたて


中庭へ転げ落ちる二人。


しかし、すぐに向き直ると

「っ、母上っ!!!」


まさは、崩れ落ちる柱の中

炎にまかれゆく母のもとへ

走りだす。


    パシッ!!


止めたのは、原田さんであった。


「なっ、何を一・・・っ」

振り返ったまさの瞳から


大粒の雫が零れる。


「行くんじゃねぇっ!!」

「っ、でも、母がっ!!」

風が通った。


まさの家を、母を包む


炎が一層、煽られ勢力を


増していく。


「放してっ!放してっ!!

母上っ!!!!!」


まさは何度も、掴まれた


手を振りほどこうと暴れる。


しかし、動けば動く程


原田さんの手には力が入り

解くことなどできようがなかった。


「・・・まさっ!」


そこへ、響いてきたのは


炎の中、二人の姿を


見つめる、母の声一・・。

「母上っ!!!」


「一・・来るんやない!」

「でも一・・・・・っ!」

「・・・原田はんっ!!


娘を・・・まさを・・・・

頼みます一・・・・・っ」

「一・・・・・・・っ!」

ドダダ!!バタンッ!!!

   ガララッ!!!


次の瞬間。


まさの母の姿は、真っ赤な

炎と真っ黒な煙の中


消えていた一・・・・・。

最後に二人が見たのは、


その母の優しげに微笑みを

浮かべた姿一・・・・・。
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