風姿華伝書![](/img/emoji/4P.gif)
□華伝書98
3ページ/7ページ
一笑って・・・往ける一
みつは、言い切って女将に
頬を緩ませて見せさえした。
「一・・・・・・・っ」
その、予想もしなかった
言葉に、思わず口を閉ざす女将。
それは、みつの反抗に
対する<怒り>ではなく・・
むしろ<驚き>故であった。
何が一・・・と特別感じる
ものではなかったが
確かに、何か一・・・・が
以前のみつとは格別に
変わっていたのである。
一・・・強いて、言うなら
<強さ>
とでも言えばよいのであろうか。
(以前の夕月にとっては、
芸妓として生きるための
<上品さ>と<可憐さ>が
備わっていればそれで
充分だった。でも一・・・
今は一・・・違う・・・。
今、私の知らない間に
この子は・・・みつは・・
大切なものを得たのだ)
・・・たった一人・・・。
この動乱の世にたった一人
見つけだせた<御方>を
心の底から<支えたい>と
いう、<ご新造・妻>として
の<強さ>一・・・・・を。
そして一・・・護られる
立場の代わりに疲れ果てた
<想う方>を優しく包み込む
心の広さを一・・・・・。
負傷した人々の騒めきと
共に、刻一刻と時は
白状にも祇園を焼き尽くし
二人の間を流れていく・・。