風姿華伝書

□華伝書98
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一笑って・・・往ける一


みつは、言い切って女将に

頬を緩ませて見せさえした。


「一・・・・・・・っ」


その、予想もしなかった


言葉に、思わず口を閉ざす女将。


それは、みつの反抗に


対する<怒り>ではなく・・

むしろ<驚き>故であった。

何が一・・・と特別感じる

ものではなかったが


確かに、何か一・・・・が

以前のみつとは格別に


変わっていたのである。


一・・・強いて、言うなら

    <強さ>


とでも言えばよいのであろうか。


(以前の夕月にとっては、

芸妓として生きるための


<上品さ>と<可憐さ>が


備わっていればそれで


充分だった。でも一・・・

今は一・・・違う・・・。

今、私の知らない間に


この子は・・・みつは・・

大切なものを得たのだ)


・・・たった一人・・・。

この動乱の世にたった一人

見つけだせた<御方>を


心の底から<支えたい>と


いう、<ご新造・妻>として

の<強さ>一・・・・・を。

そして一・・・護られる


立場の代わりに疲れ果てた

<想う方>を優しく包み込む

心の広さを一・・・・・。

負傷した人々の騒めきと


共に、刻一刻と時は


白状にも祇園を焼き尽くし

二人の間を流れていく・・。
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