風姿華伝書

□華伝書95
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一・・・その頃。


壬生の地から新屯所


<西本願寺>へ屯所を移転

した新選組は、その日の


隊務を終えた者からという

条件付きではあったが


移転が何とか一段落した


<祝い>の宴会が開かれていた。


折よく、陽が落ちると共に

元・屯所である壬生の


八木家当主・八木源之丞


から、贔屓にしている酒屋

の酒樽三つが届き、仕事を

終えた隊士達に振る舞われ

「弥杯(いやさか)ーっ!」

本堂から青竹を組んだ矢来

で区切られた北集会所から

は、すっかり気持ち良く


なった隊士達の騒つく声が

響いている。


[いやさか、とは今でいう

乾杯の意味です]


「とんでもない御方を


引き入れたもんや・・・」

と、女人を入れないという

条件付きで彼らを引き受け

てしまった西本願寺住職は

自室にて一人、頭を


抱えたが今となってはもう遅い。


今更、出ていけといった


ところで今度は彼らの


上である会津藩から何を


言われるかわかったもの


ではないのである。


思わず、住職の口から


ため息がもれた。


ここまできてはもう、何を

言ってもただの戯れ言に


過ぎなかった一・・・・。




一方、問題の彼らはと


いうと一・・・・・。


「おぅ、鉄ー!飲め飲め」

「飲みませんて」

五百畳もある北集会所を


幾部屋にも区分けした


隊士部屋前の広い庭にて


先輩方の酒を苦笑いで


かわす、鉄之助の姿があった。


当時は、まだ年齢による


酒の規定はなく、老いも


若いも区別なく、酒は飲め

ていたのである。


とはいえ、まだ鉄之助は


やっと最近、沖田先生にも

伝わる程に剣を扱えるよう

になってきたばかりの


いわば、まだまだ幼子。


とても、周りの大人と


肩を並べて酒を扱える程の

年齢ではなかった。


先輩方に樽から柄杓で酒を

配っては、勧められた酒を

飲めないと言い張り、


逃げ出す始末。


仕舞いには、


「土方副長の小姓役で


少しは大人びたかと思った

が、如何せん、まだまだ


鉄之助は幼子だなぁ」


と、皆から笑われてしまった。
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