風姿華伝書

□華伝書8
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内なる自分が自身に問う。





 より、強く―・・・
なりたいか―・・?






「―・・・っ!?」


宗次郎は困惑しながらも、

その問いに、答えた・・。





 強く なりたい・・






父の名に恥じぬように、 

若先生、歳三さん、


周助先生―・・皆の力に


なれるように


 強く、なりたい―・・。

 強く―・・・







この瞬間。       

フッと宗次郎の正の心は、

とぎれたのだった・・。


代わりに現れたのは、  

 鬼の心(負の心)・・。

それは、人を斬る欲望に


かられ、濁った心―・・・

宗次郎の、強くなりたいと

願う、大きな気持ちが、


自身を鬼の心へと傾かせてしまったのだ。


 ダダダッ!!!


そして、我を忘れ、鬼と


なった宗次郎の目の前には

たたずんだままの吉次の姿が―・・。


ギロッとした鬼のような


目をし、ダダッと吉次


めがけて走りだす、宗次郎。


ものすごい速さであった。

「うわっ!?」


そして、一瞬、刀を振り


上げたかと思うと、刀ごと

吉次を、ねじ伏せた。


ドタンッと、大きな音が土手に響く。


吉次は、急に強くなって


しまった宗次郎に、手も


足もだすことができなかった。


土手にたたきつけられ、


最後の抵抗とばかりに、


もがくが、宗次郎は動じない。


鬼の心に体を支配され、


人を斬りたいという欲望の

まま、動いているからだ。

そこには、いつもの優しい

宗次郎の姿は、無い。


辺りで、その様子を見て


いた誰もが、直感していた。


 宗次郎が、
吉次を斬る―・・っ






と、その時だった。


キィィィンッ!!!


土手の茂みに隠れ、その


様子を見ていた歳三が、


自前の刀を手に、飛び


込んできたのは―・・・。

「―・・・っ。何して


やがる宗次郎!こいつを、

斬るきかっ!?」


吉次を斬ろうとして、


宗次郎が振り上げた刀を


受けながら、歳三が問う。

宗次郎は一瞬、ビクッと


しながらも、答えない。


(なんて力だ―・・)


吉次を守るべく、受けた


刀が、フルフルと震えている。


十才近くも上の歳三が、


宗次郎に押されていた。


おそらく、心が鬼に傾いた

ことにより、宗次郎の中に

秘められていた力が、一気

にあふれだし、増大したのだろう。


じりじりと押されていく、歳三。


このままでは、吉次


もろともこの場にいる皆が

斬られてしまう・・。


すると、歳三は逆にキッと

瞳を宗次郎へ向け、


「・・斬らせねぇぞ、宗次郎。


お前、一体何がどうしち


まったってんだよ。いつも

のお前は、こんな・・っ」

と、問い掛け始めた。


なんとしても、今の、


宗次郎を止めたかったのだ。


斬らせねぇぞ―・・、


 絶対に―・・・


その思い、一つだった。


「・・宗次郎―・・・」


「―・・・っ!」






 ザンッ!!!


と、歳三が、宗次郎に


近づいた時だった―・・。

まるで、近づくなと言わん

ばかりに、宗次郎が、


歳三の刀を振り飛ばそうとし、


その刄が、歳三の    

右まぶたを斬ったのは・・。
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