風姿華伝書

□華伝書80
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   ドスンッ!!!


「っ、沖田先生っ!?!」

みつの声が、春の夕暮れの

中にしみじみと響いていった。


急いで振り返ると、裸足の

まま、先生が消えていった

中庭へと飛び降りた。


そして、庭木の生えている

一角で目を回し、頭でも


打ったのか。


うなっている先生のもとへ

かけより、


「大丈夫ですかっ!?」


と、声を枯らし先生を揺すった。


先生は、どうやら頭を


打ったらしく、うんと


うなってはいたが、気を


失うほどではなかったらしい。


「しっかりしてくださいっ

先生っ!!」


「は・・・はひ・・・」


みつが必死に揺すり続ける

と、何かしらの返事を


返してきた。


はぁっと一先ず、


安堵感から胸を撫で下ろすみつ。


「一・・・・・っ」


と、そこで、ある疑問が


みつの中で浮上してきた。

それは単に、新選組の


一番隊組長がこんなとこで

転ぶのか?などといった、

単純・簡潔なものではなく

(どうして、先生は


ここへ一・・・・・?)


あれだけ、言い合った最中

に、なぜ先生はみつの


部屋をわざわざ訪れたのか

というものであった。


確かに、ただの言い合い


だったなら、先生の心が


広い故だといえるだろう。

しかし、みつはあの時・・。


ドカッとおもいっきり、


先生の足を蹴ってしまっている。


相当、痛かったにちがいない。


普通なら一・・・・・。


(数日、口を聞かなく


なったっておかしく


ないのに)


それなのに、なぜ一・・。

「一・・・ん・・・・・」

「っ、先生!気が


付きましたかっ?」


考えに耽っていたみつは


しばしの間、目を回して


いた先生の手をとり、


語り掛けた。


「どこか、お怪我は?」


「一・・・いえ。ないみたいです」


先生は打った頭を


押さえつつ、起き上がると

みつへ微笑みを浮かべた。

「っ、よかった・・・」


その笑みにつられ、みつも

微笑みかえす。


そんな二人の横には、


春の夕暮れに伴い、


長い長い影が、重なり


伸びていた。


先生は、ふと自身の手へ


目を向けた。


(なんだろう。とても・・

暖かい一・・・・・)


     ギュッ


「一・・・っ、あっ・・」


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