風姿華伝書

□華伝書80
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夕刻。


春になり、だいぶ、日が


長くなりつつある


夕刻近くの時分に縁側を


一人歩く、沖田先生の姿があった。


(やはり、みつさん


一人では心もとない・・)

その理由はもちろん、


西本願寺へ向かうみつを


何とか止めようというもの

であった。


すでに、夕刻近くに屯所を

出ることは、原田さんから

聞いている、先生。


あれだけ副長が隠そうと


していたにも関わらず、


案外、聞くと簡単に


教えてもらえた。


まぁ、原田さんとしては


みつのことで、すでに


我を失いつつある先生を


面白がってのことであろうが。


そんなこととは露も


存じない先生は、夕暮れと

なり、カラスが鳴く度々、

歩幅を広くしていった。


そして一・・・・・


「み一・・・・・っ」


八木家にあるみつ達、女中

部屋の前まで、足を進めた

時であった。


大きく開け放たれた戸の


中へ、みつを呼び掛けた


先生は、思わず息を沈めた。


みつが、いたのである。


ただ、それだけのこと


なのである・・・が・・。

その姿は、いつもの姿とも

先生の思い描いていたもの

とも、大きくかけ離れた


ものであった。


髪は武家の娘らしい


<高島田>。


着物は、いかにも


新選組を思わせる、淡い


浅葱色一・・・。


そして、中でも先生の目を

止まらせたのは、


数々の簪の中から


抜き取りみつが必死に


祈りをこめる、<コウガイ>

の簪一・・・。


(一・・・っ、あれは・・)

     ツルッ


「っ、わゎっ!?!」

「っ、えっ、あっ!


沖田先生っ!?」


余程、驚いたのであろう。

知らず知らずの内、足を


後ろへ下げていた先生は


縁側の縁を通り越し、


あろうことか、足を滑らせ

八木の家の中庭へと背中


から、スッ転んでしまった。
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