風姿華伝書

□華伝書79
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一〈大嫌いやっ!!!〉一

「一・・・・・」


お里の、その哀しみ、


憎しみがすべて詰まった 

叫びに、みつは怒りも何も

言葉を、返すことすら


できなかった。


一・・・悲しいんだ・・。

憎いんだ一・・・・・。 

愛しい方を、いきなり  

奪われて一・・・・・。 

私だって、もし、先生が 

こんなことになったら・・

きっと、正気でなんて  

いられやしない・・・・・

今の、お里さんのように 

泣いて、叫んで一・・・一

みつの瞳から、涙が溢れる。


今の、お里の〈思い〉・・

それを自身に置き換え、


想像しただけで、胸が


潰れるような思いがしたのだ。


すると、涙を流すみつに 

気付いたお里が、口を開いた。


「一・・・なんで・・・


あんたが泣くん?何も、


哀しいことなんか、


おまへんやろ」


その問い掛けに、みつは 

ようやく口を開くと、


「一・・・哀しいです」


と、呟いた。


「何が一・・・何が・・・

哀しいやっ!何も、


奪われたことのない


あんたが、どうしてっ」


「一・・・哀しいのです。

破れば、有無を言わせず、

切腹と言うこの〈武士道〉

というものが一・・・。


そして、それを命懸けで 

貫き通そうとする、   

新選組の皆さんの


姿が一・・・・・。


私は、哀しいです・・・」

「一・・・・・っ」


思わず、お里の言葉が止む。


と、そこへ、みつは


間髪入れず、お里に丁寧に

頭を下げた。


突然のみつの行動に、  

眼を丸くする、お里。


みつは、涙声で呟いた。


「一・・・お里さん・・。

あなたの新選組に対する


怒りや憎しみは、私が


想像など、できないものだ

と思います。一・・・でも

どうか、新選組の方々を


責めないであげてください。


・・・許してほしいとは


いいません。しかし・・・

せめて、新選組と関わった

ことを


〈忘れてあげてください〉」


「一・・・・・っ」


「信じられなくとも・・・

新選組の方々もボロボロに

傷ついているんです。


だから一・・・・・」


「嘘やっ、そんなんっ!!

そんならどうして切腹や


なんて酷い仕打ちしたり


するんっ!?本当の仲間


だっていうんなら、


そんなこと一・・・っ!!

どうせ、何とも思って


おへんのやろっ?血も涙も

通ってない、壬生狼の


ことや、なんも一・・・」

「そんなことありません!!」


ついに、みつの声が上がった。


ビクッと、お里が身をちぢめる。


「そんなこと一・・・・・

ありません。・・・もし、

こういっても、まだ信じて

頂けないなら、どうぞ、


その怒り、憎しみを込めて

私を、お殴りください。


それで、お里さんの


新選組への怒りが少しでも

治まるなら、私は


何度、殴られても、


構いませんっ!!」


みつは、キリッとした眼を

して、お里をじっと見上げる。


お里は、その眼に


込められた、みつの思いに

振り上げた手を布団へ  

沈めた。


「一・・・なんで、


そないに、言えるん・・?

なんで、関わりもないのに

殴れやなんて・・・・・」

「私は一・・・新選組の


皆さんが大好きなのです。

本当はとても優しい方々


ばかりなのに、不器用故に

世間では、鬼や狼だなんて

言われてる皆さんが・・。

それに私は、新選組にも 

お里さんにも関わりが


ありません。だから・・・

皆が責められるくらいなら

私が代わればいいと


そう思ったのです」
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