みじかいの

□Day by Day You and Me
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「貴様は我輩を馬鹿にしているのか?」







僕の家は風上3丁目8番地 狭山(さやま)さん家の向かい


最近近くに住み始めたらしい新顔の彼は
陽気の下で日向ぼっこをしていた僕を真っ直ぐ見て、確かにそう言った。
口調こそ冷静なものの、刺すように冷たい声音は明らかに怒りを孕んでいて
僕はうなだれる。また、彼を怒らせてしまった。


「そんな…… 僕は、ただ」


原因が僕にあることは分かっているのだが
僕の何がそんなに彼の機嫌を損ねるのか、どうすれば彼を怒らせずに済むのか
その大事なところが分からない。
分からないから、何度も彼を怒らせる。


「あの程度のものなど、取るに足らない障害だった。障害と呼ぶのでさえおこがましい。
 だが貴様は何をした?貴様から見た我輩は、そんなに虚弱か。」

「そういうつもりでやったんじゃ…」


一瞬たりとも逸らされない視線が痛い。
とても見上げられているとは思えない威圧に圧される。
こんな僕が、彼を弱いだなんて思えるはずないのに。どうして分かってくれないんだろうか。





そもそも僕と彼が分かり合える日なんてものはこないのかもしれない。
僕らは立場も見た目も価値観も、ものの取り方だって違いすぎる。
僕にとっての親切が彼の御節介となり、彼が望むであろう無関心は僕からすれば非情

だけどそれ以前に、僕らは同じ世界で生きる生き物なんだから
すべてが違うわけじゃない。

僕の言葉は、少なくとも彼に理解されている。



「きみが、とても運動神経よくて身軽なのは知っているよ…?
 でも、それでも溝があるのと無いのとじゃあ無い方がいいかなと思って…」

「ふん、貴様等のような木偶の坊からすれば、あんなもの溝ではなく穴だろう。
 そうして、その“穴”に我輩が嵌るのを想像して、同情的な気分に浸るわけだ。」

「僕から見ても、あれは溝だよ…!」


違うってば。むきになるところはそこじゃない。


分かっているのに、上手く言葉に出来ないのがもどかしくて悔しくて
思わず吠えかかってしまいそうになる。
どうも僕という生き物は、嬉しくても悲しくても声を荒げるクセがあってダメだ。


「頭が良い、忠実、無垢。
 尻尾を振って生きる生き物が愛玩されるのは自然の摂理だろうな。
 貴様がそれを狙って生きているわけではないことも知っている。」

「……うん。」

「だが貴様のその本能自体、我輩のそれとは相容れないのだ。
 我輩は誰の手も借りない。たとえそれが死を招いても、我輩は独りで死ぬ。
 縁起が悪い気性が荒い、そう言うなら放っておいてくれ。愛玩などされたくもない。願い下げだ。」



そっぽを向いたその背中が、ひどく気高いものに思えた。
自分より一回りも二回りも小さいその体躯に抱えたプライドはきっと僕なんかには想像もつかないほど
彼、いや彼らにとって大事なもので、彼らとはそういう生き物なんだと思い知った。


それでも



「我輩がどういう生き物なのか、よく分かっただろう。
 これに懲りたら我輩に干渉するのはやめることだな。お互い不快な思いをして、何が楽しい。
 明日からは吠えかかるなり噛み殺すなり好きにすればいい。我輩も好きに生きる。」


「あ、待って! でっ、でも僕はやっぱり」








僕の家は風上3丁目8番地 で、君の住処はお隣の路地
これから毎日、君か僕のどっちかが引っ越ししないかぎり、顔をあわせることになるんだから


君が僕とは別の種族でも、僕は心から




「やっぱり猫(きみ)と、なかよくしたいな……!」




そう、思うんだ。










Day by Day ,
 You and Me










090711



わんことにゃんこ
イメージは犬→ゴールデンレトリバー、猫→黒野良

あんまし上手くまとまらなかった…









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