みじかいの
□逃亡者
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からん、大理石の床に転がり落ちた銀の指輪
自分で投げ捨てておいて、なんとも哀れで物悲しい音だと思った。
それを目で追う彼女の手を優しく取って囁く。
「怖い?」
「…怖いわけ、ない。」
私、ちゃんと決めたよ
そう言い放った強い口調とは裏腹、瞳が揺れていることに果たして彼女は気づいているだろうか。
無理もない。俺の行動、彼女の覚悟、二人の決断はお世辞にも褒められたものじゃなくて
確実に第三者を不幸にする。そしてそれを分かっているからなお、背徳的なのだ。
それでも。それでも俺はこの方法を選び、彼女はそんな俺に応えてくれた
彼女を失いたくないという俺のどこまでも汚く醜く、真っ直ぐな欲望に。
あとは過去も畏れも最上の裏切りで、隠して殺して走るだけ。
「この手を絶対に離さないで。俺から離れないで。
後ろ髪を引かれないで。畏れないで後悔しないで」
畳み掛けるよう、揺るぎない言葉の鎖で束縛する。これが最後の確認のつもりだった。
だが強く握られた右手を肯定と取れば、もう二人を止められるものは無い。
「 俺はお前を離すつもり、ないから 」
開け放たれた重い扉。
途端降り注ぐ太陽に目が眩んだ。が、立ち止まっている暇はない。
俺達はすぐに走りだす。赤いレンガ造りの小道も、白い花畑も抜けてずっとずっと遠くへ
当ても無ければ逃げ切れる自信も無かった。
例えるならばそれは果てない不安の海を泳いでいる気分。気を抜けば、たちまち沈んでしまうような海。
でもこの右手は依然、二人を堅く強く結んでいた。
走る足取りも、呼吸も、いずれは心臓の鼓動さえ重なり合って
二人にしか見えない世界を創ってしまえばいいのに。そこへ辿り着ければいいのに。
気づけば彼女は裸足だった。
かしこまったハイヒールでは心底走りづらかったのだろう。
急に軽快になった脚が跳ねて、そのたび純白のドレスが踊る。
なんとも自由で涼しげで美しいその姿に見惚れて、思わず自分の靴も蹴り上げた。
必要ない。こんなもの。そんな気がした。
さあ、めいっぱいの幸せを想像しよう
この手が最期まで離れなかった時の話をしよう
先なんて真っ暗で何も見えない
でも恐怖は感じなかった。
他でもない彼女が隣で、同じ暗闇を走っている。
その事実がなによりも、こんな方法しか取れなかった俺を慰めるのだ。
逃 亡 者
略奪愛、なんて聞こえはいいけど
実質は卑怯者の最終手段
悪いな、でもコイツだけは
090621
ようするに駆け落ち。
心境描写に苦労した覚えがある。
や、だって俺駆け落ちしたことないし←
にしても式当日って辺りがなんとも俺らしい…
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