みじかいの

□もしも、の朝
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もし明日になって目が覚めた時、君が隣にいなくても。


一人分の温もりしか残さないベッド、音を立てないコーヒーメーカー
部屋中にあるすべてのものが、君がもうこの部屋にいないという事を告げていても
きっと俺は変わらないだろう。

退屈な昼をやり過ごして、日が暮れてから帰宅して、夜になって
それでも君が帰って来なくても、捜しになんて行かないし、みっともなく落胆したりしない。
君がいなくなったって、きっと何も変わらない。
朝が来て、夜を迎える日々に何の変化も与えない。
誰も君がいない事に気付かない。単調な世界は平和そのもの。


だけどそうなったら俺は、君の帰りを待つ。


紙を切り抜いたようにあっさり、世界から姿を消した君は
いつか紙を貼り付けるようにひょっこり、世界に戻ってくるはずだから。
それがたとえ何年後、何十年後の事でも、いつかあの部屋に帰ってくると信じているから。

それまでの間、俺はなんでもない顔をして一人でコーヒーを飲む。
いつも通りに部屋を出て、いずれは仕事に就く。
平凡に年を重ね、あらゆる出会いを果たす。君以外の女性と、笑顔で会話を交わす。
一人の人間として生活を続けるふりで、君を待ち続けるのだ。

淋しくはない。哀しくはない。俺の世界は何も変わっていないのだから。


そしてある日の朝、コーヒーの良い香りで目が覚めたら
静かに着替えて、顔を洗って、キッチンに向かうだろう。
そこで少し申し訳なさそうに微笑む君に、変わらない笑顔で「おかえり」をあげるだろう。
彼女が帰ってきたとしても、俺の世界は変わらない。


***


「…あ、起きた?」
「うん、おはよう。」
「ふふ、寝言で『おかえり』って言ってたよ。何の夢を見てたの?」
「………もしも、の夢だよ。」







  もしも、の朝

 (いつか、いつもと違う朝が来ても)







Fin.






110805

とある世界の、もしも、の話
夢オチじゃないです。もしも、です。
冷たい男だと感じる方もいると思います
それを愛だと感じる人もいるかもしれません
色んな感じ方をしていただきたいです。



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