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□タイトル無
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「おはよう」
 年賀状を取りに外に出たら、手塚君がいた。

 朝10時。
 家族とのジャンケンに負けた私は渋々あったかいおコタから抜け出して、玄関のドアを開けました。
 うわ、さっむ!とか言いながら門のポストを開けようとしたら。
『おはよう』
 おはよう。
 顔を上げたら、同じクラスの手塚君の顔がありました。
 今ココ。うん、オッケ。分かったわ。
「…あ、うん! おはよお」
 たっぷり30秒は遅れて返すと、それでも手塚君はこくんと頷いてくれた。
「寒いな、そんな格好で大丈夫なのか?」
 言いながら、ごそごそとマフラーを外して門の外から手渡してきた。思わず受け取る。
「…巻け」
「あ、はい」
 お言葉に甘えて、マフラーを首に巻く。外じゃカーディガン着てても寒く見えるか。まあ実際寒いわ。
 手塚君のマフラー、見た目より柔らかい。さてはお高いな? しかも手塚君の首に触れてた辺りはあったかい。
 サラリと外して手渡す辺り、男前だ。
「気遣いの紳士だねぇ」
「…何だそれは」
「ん? あー…ごめん、思い付いたから言っただけ」
 あはは、と笑えばちょっと首を傾げてふむ、と見上げられた。段差の分で、私の方が視線が高い…今頃気付いた。
 想定外だからな、予想外デス、だからなぁ手塚君がくるのは。気付くのも遅れるわけよ。
「あ、そうだ。どうしたの?お散歩?」
 コートを着てマフラー巻いて。手塚君の家はここからそう遠くない。うちの先にはコンビニとかあるし、行きがてら通ったら私がいた。で、声かけた、かな?
 勝手に想像しながら門扉に手を掛ける。子供みたいに身を乗り出すと、意外や間近に顔が来た。
 わぉ、とか思いつつ、そのまま首を傾げると間近で眼鏡の中、目が二度瞬いた。
 あ、あー睫毛多い?かも。伏せた瞬間がやけに色っぽいぞ手塚国光ー羨ましいぞ手塚国光ー。
「年賀状を、出しに行く」
 薄い唇が動くのをまじまじ見ながら、その言葉に納得する。コンビニの前にはポストがある。
「へぇ。あれ、近くにポストないの?」
「ないんだ。今日ばかりは不便だと思った」
「あは、普段は縁遠いもんねポスト」
 またこくんと頷いて、手塚君は私を見上げる。ん?と首を傾げれば、手塚君はつられたみたいに同じ方に少し頭を傾けた。なんかネコみたいで、少し笑える。
 強面のネコ。うわ、かわいいかも。
 思わず手を伸ばして髪を撫でると、ほんのちょっと目を細めた。そのまんま、手に少しだけすり寄るみたいにされた。手に頭を預けられて、髪の毛がさらさら手をすべる。
 あぁ、もう。何よ可愛いじゃない本当に。
 思わず両手を伸ばして、頭をぎゅって抱き締めた。貴重だわ、手塚君を子供みたいに抱っこできるなんて。
 門扉越しにしばらくそうしてると、手塚君が顔を上げて頬に頬を押しつけてきた。けっこう冷たくってビクっとした。私の反応を見て、小さく笑う。コノヤロウ。
「…あぁ、そうだ」
「ん?なになに?」
 短い笑みを収めると、手塚君はポケットに手を入れてハガキの束を取り出す。
「あけましておめでとう」
 す、と。束の一番上から抜き取ったハガキを差し出された。
「え?あ。あけましておめでとう」
 受け取りながら言う。
「一日に、届いた」
「うん?」
「今年は書くのが遅くて、今から出すから」
 渡そうと思った。そう言って満足げに溜め息をつく。
「一番に届けたぞ。一番に届いたからな」
 うんうん、一人で頷きながら言ってまた私を見上げた。





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