(旧視聴覚室にてお笑い部より)

□青二才映画館
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読書の秋。2年の秋。

お笑い部3人は中庭が目の前に広がる1階図書室にいた。
この学校のそれは手狭ではあるが、1年前に改修したばかりで清潔感がある。
本棚、30分刻みの貸し出し用パソコン、自習室、観葉植物、色とりどりのスツールやカウチの並んだアーティスティックなその空間は生徒間でそれなりの人気があった。
最近は専らそこでおもしろいことを探しているお笑い部なのであった。

古い書物を引っ張り出してみたりと、ここ1週間は図書室で放課後を過ごしている。

一昨日の話だ。分厚い辞書を適当に開いてその近くのページに載っている一番面白い単語と意味を口にする…という遊びを発見したのは。
それを「辞書めっこ」と名付けて遊んでいて3人で大笑いした結果、司書の先生にきつく注意を受けたのが昨日のハイライトである。

その為、肩身狭くカウチに3人肩を合わせ静かにページをめくっているわけであった。
日向と有沢は雑誌、峨山は最近流行っているという新作の本だ。

日向は有沢の読んでいる雑誌に目を向けた。
勿論、昨日の失敗を受け、小声である。

「なあに、それ」
「映画特集。最近面白そうなの沢山あるからさ、観てえなって思って」
峨山もこっそりと口を挟んだ。
「映画なあ」
「私、映画館苦手なんだよね」
「なんで」
「映画館って楽しくね?いつもと違う感じがしねえ?」
「だって映画館って喋れないもん」
「当たり前だろ」
「あー確かに日向は苦手そうだわ」
マシンガントーカーだもん、ぼそりと言い、有沢は紙をもう1枚めくる。次のページも映画についてのことだった。

「私も大画面で観てみたいんだけどさ」
「喋んなけりゃいいじゃねえか」
「それは無理だ」
「即答かよ」
「それだったら家とかでみんなであれこれ言いながら観る方が楽しいよ」
「お前と観るとホラーもギャグになりそうだけど」
「馬鹿、がっさん、家でホラー観るとか馬鹿かよ。怖いものは幽霊呼ぶんだぞ。家に幽霊来たらどうすんだ。家族に迷惑かかるだろうが」
「お前が怖いだけだろ…」
「馬鹿野郎、怖いことあるかよ、なめんな」
「映画館で観るとか家で観るとか以前にお前絶対ホラー観ないだろっての」


少し笑いながら日向は自分の手元の雑誌に視線を落とす。
すると、影が。

「――あなたたち、静かに」

その柔らかい声が逆に3人を震い上がらせるのであった。
学校鞄を携えたお笑い部は早々に自分たちの住処(旧視聴覚室)へと戻っていく。











その次の日の放課後。
お笑い部長は職員室に呼び出され、なんとも言えない表情を浮かべていた。

「はあ…疲れた…頭固いんだよ…」
今度絶対職員室の机に落ち葉入れてやろう。そんなことをぶつくさ言いながら教室へ足を踏み入れる。

「あれ?誰もいないの…?」

ポカンと口を開けながら、教卓へと歩く。
なんだと。待っててって言ったのに。
あ、わかった、驚かそうと思って掃除用ロッカーに隠れてるんだ!

「2人ともあざといなあ、そんなの簡単に読めるって!」

教室の一番後ろに備え付けられている掃除用ロッカーを勢いよく開けると、計算されていたかのように箒が頭上へと雪崩てきた。
「っわ!」
…読まれてるのは私のほうだったみたい。
いそいそと箒を戻す私のなんと切なく悲しいことか。

全て戻し終わって教室をぐるり眺めた後あることに気付いた。
私の机の上に何かある?

手にとって見てみると【16時、特別教室に】と書かれた紙だった。

一瞬少しだけ心臓が跳ねたが、よくよく見ると、筆跡的に千尋ちゃんだろうか。
鞄にペンケースを詰め込み、足早に2年A組の教室を後にする。
なんだなんだ、私を驚かそうなんて、なんて、おもしろい。

私の教室から特別教室まではちょっと遠い。購買を越えたところにある。
わくわくに胸を馳せながら小走りで廊下を渡った。

それは階段横にある。
そろりと教室の扉に手を掛けた。
するりと開いた扉の隙間から見えたのは、

「千尋ちゃん、がっさん…これ…」
「おお日向!どうよこれ!」

床から天井までスクリーンと映写機がそこにはあった。

「…まあ映画館の画面よりは小さいけどな」
「このスクリーンどこから持ってきたの…?」
「大変だったんだぞ、お前、どんだけ苦労したことか!本館の視聴覚室の鍵くすねて忍び込んでさあ。ここに持ってくるまですっげえ緊張したわ!なあ、がっさん」
「ん」
「これで喋りながら大画面で観れんだろ!」

夕日に照らされたスクリーンはあの日のホワイトボードのように輝いていた。
「…ありがとう!!」





(うっわ、がっさん!!うっわ!がっさん!!お前!!信じてたのに!なにこれ!うっわ!!こっわ!!)
(あははは!千尋ちゃ…っ顔…っははは、お、お腹痛、あはははは!)
(なにこれ、最恐とか書いてあったくせに、全然怖くないな)





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