(旧視聴覚室にてお笑い部より)

□毒されて
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それからの俺はというと…

「峨山くん!お昼食べよう?」
「げ」
「峨山くん!お昼食べよう?」
「いや…俺は、」
「峨山くん!お昼食べ」
「何回言うんだよお前!」
「あのね、今日は千尋ちゃん中庭でカノジョさんと食べるって!だから外に食べにいって絡みに行こう」
「やめてやれよ…」

逃げては捕まり逃げ回っては捕まりという一週間を送っていた。
授業中はボケをかましては俺のほうを振り返りきらきらした瞳を向けてくる。正直げんなりだ。

「えーつまんない」
「有沢可哀想すぎるだろ」

昼はこんな風に逃げる隙も与えないほどすぐ駆け寄ってくる。うんざりだ。
ぱたぱたぴょこぴょこと騒がしい女だな。
セーラー服の上に羽織られたプロデューサー巻きのカーディガンが勢いで落ちそうになってる。

日向達のおかげで女子からも男子からも変な目線を向けられるようになった。
何なんだ、俺は別にこいつのことが好きなわけではないのに。
嫌でもくっついてくるんだ、こいつらは。
俺が何をしたっていうんだ?

安斎は確かに可愛いだろうが、お前らは知らないだろう。
この女は何より笑いが好きなのだ。焦がれているのだ。追い求めているのだ。他人の人権を無視するほどに。

まあそのおかげで人気者なのだろうが、付き合わされるほうはたまったもんじゃない。
日々が刺激でいっぱいだ。


「峨山くん今日はお弁当なんだね。私もお弁当だよ!お揃いお揃い」
「お前学校中にお揃いどんだけいることになっちゃうんだよそれ」

また納得したように満足気な笑みを浮かべる安斎日向を一瞥する。

それは「そういう流れ」ということに収まっているらしい。
自分はなんとなく、なんとなくだけど、気付いていた。
身のあるようでない会話。
普通に話しているだけのはずなのに成立しているボケとツッコミ。

別に俺はこの流れが言っているほど嫌いじゃないということだ。

苛々にも似た感情を振り返っていたら、安斎は急に右腕を上げた。
まるで授業中の挙手のように。
だが今は昼休みの廊下のど真ん中。

「峨山くん!一発芸するね!」
「は?」
「オスプレイのモノマネします」
「は?」
「オスプレイ」
「航空機じゃねえか」

「ぶーーん、じゃん!オスプレイ!」

袖の通されていないカーディガンの両腕部分を両手で振り回しながら安斎は繰り返した。
それで羽部分を表現しているつもりらしい。

「オスプレイ」
「……」
「オスプ」
「お前馬鹿だろ」

ぶつくさ言いながら俺は安斎の後ろを着いて行く。
安斎のほうは、寒いなーとかなんとか言っていた。結局外に行くのはやめたらしい。

いつも通り空っぽの特別教室に入る。
安斎は教卓、俺はその正面の生徒用の机に座るのが定例となっていた。

「わーい、いただきまーす!」
「いただきます」

弁当の蓋を開けながら安斎が言う。
「峨山くんてさ、兄弟いる?」
「いないよ」
「ふうん。私もいない。峨山くん幼馴染いる?」
「こっちには中学の頃に引っ越してきたから、あんまり長い付き合いの奴とかはいない」
「私はねー千尋ちゃん。ずっと隣ん家なんだ」
「ああ、前に有沢に聞いた」
「峨山くんてさ、友達いる?」
「馬鹿にしてんのかお前?」
「峨山くんてさ、私のことなんて呼んでるの?」
「え?」
「だって私の前だといっつもお前って呼ぶからさ」
「……」

名前で呼べということだろうか?
別にどうということはない。お望み通り口に出す。

「…安斎、喋ってないでさっさと食えよ」
「日向でいいよ」

にっと笑って安斎は箸で卵焼きをつまんで口に持っていく。
もうほとんど花も落ちてしまった桜の木を横目に見る。

「……」
「峨山くん、放課後にAgβで落書き大会しようよ。
お題に対して何も見ないで絵を描くの。一番面白かった人が優勝なんだよ!」
「はいはい…あ、そうだ、ええと。日向。申請出したか?」

学校にはお笑い部なんてものはなかった。
いやある筈がない。あるほうが稀だろう。
この(有沢曰く)じゃじゃ馬姫の提案により、この度正式に同好会認定申請書を提出することとなったのだ。

「自分がやるって言ったんだからな。俺達は別にやりたくないんだから、」
「ちゃんと昨日の夜書いてきたさあっ!!」
「うっわ米粒飛ばすんじゃねえよ!!」
「大丈夫、次の授業は担任の先生のだからその時出すよ!任せな!!」
「急にテンション上がりすぎだろ」
「一発芸します。荒ぶるオスプレイのモノマネ」
「やめろ」

…有沢、今すぐ助けてくれ。
このじゃじゃ馬姫は俺の手に負えない。

「ぶーーん、ぶぶううううん、ちゅどおおおおおん!!」
「オスプレイ爆発してんじゃねえか!」

あの野郎、ふざけやがって。
まだ四月後半だぞ。彼女作るの早すぎだろう。
自分はいちゃいちゃして俺に日向の世話を押し付けやがって。


「…日向」
「お?」
「飯食い終わったら中庭行かないか?」





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