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□ゆうとうせい
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わたしのよこでないてるお友だちの声。
お友だちをなぐさめている先生の声。


「篠宮さんはそんなことしないわよね?
だって、」


…?
ゆうとうせいってなんだろう。





ゆうとうせい




おうちにかえったらまず手をあらって、その次はうがい。
おへやにかえったらまず黄色のぼうしをかべにかけて、赤色のランドセルをつくえのよこにおく。
まだきれいな、わたしだけの「勉強机」だ。



当時の私は、勉強机に備え付けられた棚から分厚い本を手に取る。
辞書の使い方を覚えたばかりだった。
熱心に机の上で、体の大きさとは不釣り合いな言葉の海を漁る。
意味を引くのが楽しくて仕方なかった。小さな手で薄い紙をぺらぺらとめくるのが好きだった。
両親に褒められるのが大好きだった。「きっと今に私たちよりも物知りになるわ」なんて夕飯の席で言われるのが、そう、そんなことが、たまらなく嬉しかったのだ。





ゆうとうせい、ゆうとうせい…
あった!


ゆうとう‐せい〔イウトウ‐〕【優等生】


「優等生」…わあ、画数、多いなあ。6年生になったら習うのかなあ。
あ!さいしょの文字がわたしの名前とおんなじだ!
そっか、先生はきっとこのことを言ってたんだ!



1 成績・品行とも特に優れている学生や生徒。


「成績」はわかる。学期ごとにせいせき表をもらうから。
ひんこうはいつもの行い。この前お母さんが「品行方正」って言ってた。
あ!これも私の名前とおんなじ。優れ…?ゆう…れている?ってよむんだね。



2 言動にそつがないが、個性がなくおもしろみに欠ける人。

「そつがない」?「個性」?「おもしろみ」…「欠ける」?



私は引いた。ただただ湧き上がる純粋な探究心の元に。
導き出した答えは、完成したジグソーパズルは…今までのものとはまるで質が違っていたのだけれど。







夕飯時、私は聞いた。



「おかあさん、わたしはゆうとうせいなの?」

「あら、今日は学校でその言葉を習ったの?
そうねえ、優ちゃんは優等生よ。ね、お父さん」




私はとうとう泣き出した。





(自分の名前が嫌いな理由)





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