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□Caramel chocolate
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優ちゃんが来ましたよの声に、またかよという思考が重なる。
夜の空にははらはらと雪が舞っていた。
この地域で積もることなんて滅多にない。
氷の粒は集合することもなくコンクリートに吸い込まれていく。


黒髪には雪が溶けたあとであろう水滴がついていた。

こんばんは。
…はい、こんばんは。

真っ赤なその頬に、もし触れたとしたら、きっと色に反して冷たいだろう。
きっとだ。きっと。





Caramel chocolate.






22時、ラストオーダー。


ホットグラスに手を伸ばすと、予想外に熱い。
滅多に使わないからといってそのままにしすぎたか。
隅において少しだけ冷ますことにする。

メインはホットコーヒー。それにブラックチョコレートとバタースコッチキャラメルのリキュールを温めたものだ。
その薄茶色に生クリームを浮かべる。結構、ここがたるい。神経使う。

ふわふわした泡は相俟って甘ったるい香りを周囲に広げていった。
そこらのカフェに出てきそうなキャラメルショコラ。うちの店にはイメージが合わないと置いていなかった。こんな菓子みたいに甘いホットカクテル。

仕上げにシナモンの小瓶を手に取り、…あ、そうだ。
あいつはシナモンがそこまで好きじゃないと言っていた。
久しぶりに日の目を見るかと思われた瓶は棚に押し戻された。
代わりに冷蔵庫から取り出したオレンジピールを二つトッピングする。


コトン。
温かいグラスをカウンターの向こうへ押しやる。


それをそっと両手で包み、ココアを飲んだ子供のようにほっと息をついて、
美味しいですね、これ、どうしてメニューに入れないんですか、なんて聞いてきた。


この店にはそういうのが好きなお嬢ちゃんは来ないんだよ、普通。
そんな、雪が積もることを願うようなお子様は。

ほらまた目を吊り上げて怒る。忙しい女。
ほら、それ飲んで、さっさと帰れ。





(冷たく見えるその心にもし触れられたとしたら、きっとその外見に反してあたたかいでしょう。
きっとです。きっと。)




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