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□走光性イルミネーション
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クリスマスの光が辺りに溢れる季節になった。

冷たい風が髪をさらい、自然にぶるりと体が跳ねる。
首元のマフラーを押し上げて口元を隠した。

色とりどりの灯りが点いたり消えたり流れたり。

ただの光にどれだけ金をかけるのか。
それにたかる人々は、俺にとって滑稽にしか映らない。
綺麗だと言っているそれは、いわば金と比例しているのとなんら変わりないのに。

もこもことしたコートに身を包んだ篠宮も周りの奴らと同じように、綺麗ですねと言った。

蛍光灯の周りをくるくる回る蛾と、馬鹿みたいにくるくるくるくるその場を回って写真を撮ったり浸ったりするあいつら。
そこに何の違いがある。
あんなのは蛾だ。蛾の一種みたいなもんだ。光に寄ってくる、ただの蛾。
それを短く言ってやったら、桐生さんはまたそんなことを言う、と言われた。
予想通りの返答だった。

だからといってもその走光性をちゃんと利用する俺もいる。
利用できるものは利用するべきだ。そこに綺麗事を持ってきても仕方が無い。
店の前には落ち着いているながらもそれなりのクリスマスツリーが蟄居しているし、自分自身イルミネーションを見なかった年ってないし。
歩けば視界の隅でピカピカ、そこら中でピカピカ、五月蝿くて仕方ない。

ふと思い出したように篠宮は言葉を続けた。でもあれは、ちゃんと真っ直ぐ飛んでるつもりなんですって。本来自然にはない筈の人間の造った光が虫達にとって違う要素として作用してしまってると聞いたことがあります。と。

本来、自然には太陽の光や月の光くらいしかない。
その放射線状の光の頼りに身体を並行にして移動すれば真っ直ぐ飛べるのが当たり前だったのに、
月より明るいものを人間は造り出してしまったから。
近付けば更に明るいから始末が悪い。手に入りそうに、そこにある。
そしてまんまと近付いて、俺みたいな奴に馬鹿にされるような、飛んで火に入るなんとやらの完成。
光源に捕らわれた哀れな生き物。


何も変わらない。


光に夢中になって目を輝かせている篠宮。そこにピントを合わせたら後ろのイルミネーションの赤が滲んで見えた。
それがなんだかおもしろくて、ずっとずっと、それを見ていた。





(Merry Christmas & Happy Birthday for Ms.NIKORA)




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