記憶の赤、愛しき人よ。

□発見
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「今は本人が自制しているから良いですよ。けれどいつか…いつかそのタガが外れてしまえば…………王宮は世継ぎで溢れかえってしまいます!」

「………あー………」


八人将は皆哀れみの目で誰を見るわけでもなく、ただ遠くを見た。


「昨日はニルヴァのことも予想外でしたし…。考えたくありませんが、もしもその2人が酔った勢いでということもなくはありませんし…」

「確かに。シンドバッド様、ニルヴァのこと随分気に入って可愛がってますしね」

「だってよ。おい、どう思うよマスルール君?…って寝てんじゃねぇ!」


ヤムライハが言うと、シャルルカンがニヤニヤしながら居眠りしていたマスルールを肘で小突く。
シンドバッドがニルヴァのことを大事にする真の内情を聞いたジャーファルは素直に頷けない(残酷なことにそこには下心もあったが)。
どうやら、海の警備の強化の話以外に、シンドバッドは他の八人将にはその旨はまだ報せていないようだ。

うとうとしていたマスルールは眠そうに顔を上げ、ボツリと呟く。


「シンさんの股間に鍵でも付ければいいんじゃないスかね」

「君は時々えげつない事を言うねマスルール!」


確かにそんなものがあればどれだけ助かることか。
貞操帯のようなイメージだろうか。


と、部屋の扉が急に開いて、ニルヴァが転がり込んで来た。


「ど、どうしたのですかニルヴァ!?」

「すみませんでした!!」

「え」


と、咄嗟にニルヴァは手をついて頭を床につける。


「本当にごめんなさい!!昨晩私…私…!!いつも飲み過ぎるとああなってしまうんです!ここでは絶対にそんなことにならないようにと抑えていたのですが…ぁああ本当に皆さんにも迷惑かけてしまって本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!皆さんがお望みなら私は自害を…!!!」

「ちょ、ちょっとニルヴァたん」


舌を噛み切って本当に死ぬんじゃないかと思うくらいの早口で捲し立てるニルヴァをピスティが慌てて止める。


「そんな物騒なこと言わないの、みんな怒ってなんかいないからね?」

「ピスティさん…」


ほら立って、とニルヴァに駆け寄ったピスティが手を引いて立たせる。


「まぁ、昨日はちょっとびっくりしたけど…ね」


ピスティが意地悪そうに言うと、ニルヴァの顔が真っ赤に染まる。
でも気をつけてね、案外喜んでるコも結構いるから。
そうピスティが背伸びして囁いたが、ニルヴァはいまいち理解していないような表情をしていた。


「そうだ!今日は私お休みだし、王宮を案内してあげるよ!いいですよねジャーファルさん?」

「ええ、是非案内して差し上げなさい。ヤムライハも今日は非番ですよね?同性どうしの方がいいでしょうし、あなたも是非」

「えぇ、私ですか?今日は試作魔法の完成を……」


ごもったヤムライハはそこまで言うと、ハッと何か思い付いたかのように目を大きく見開いた。


「…いいえ、是非私も加わらせて?ニルヴァとは話したいことがたくさんあるのよ」

ニコリと笑うヤムライハの後ろに何か影を感じて、ひっ、と声が漏れる。
それを見たシャルルカンは眉を顰め、ヤムライハに言う。


「おい、ニルヴァが怖がってるじゃねぇか。どうせ魔法蘊蓄でも教え込もうとしてるんだろ。…昨日言ってた髪の毛の話、ぜってーやめろよ」

「ななな、何よ急に。そんなわけないじゃない!そりゃ、気になるっちゃあ気になるけど…。私だって彼女ともっと仲良くなりたいもの!わ、悪いかしら!?」

「おい、さりげなーく自爆してんぞお前」


頬を朱に染めて慌てるヤムライハをシャルルカンが白い目で見ると、持っていた杖で頭を軽く殴り、抗議の声も無視して立ち上がってニルヴァに歩み寄る。


「では、行ってもよろしくて?この話は今は解決できないでしょうし」


と、本人に気付かれないようにニルヴァをちらりと見て言う。
流石に彼女の前でこんな話はできない。


「ええ…そうですね。では頼みましたよ」

ジャーファルが頷くと、3人は部屋から出て行った。


「…くれぐれも、変なことは吹き込まないでくださいよ」


呟くも、ピスティとヤムライハは聞こえないふりをした。




   *  *  *






 
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