記憶の赤、愛しき人よ。
□知りたいと日常
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「…………ぃ、…おい、ニルヴァ!!」
自分の名を呼ぶ声に、ニルヴァはハッと我に返った。
「あっ……な、何です?」
「何です?じゃねぇよ!お前ずーっとぼーっとしてるじゃねぇか!飲み過ぎたか?」
そう言って心配そうに顔を覗き込むのは、シャルルカンさんの翡翠色の綺麗な瞳。
そうだ、今はシャルルカンさん、ピスティさん、スパルトスさんと飲みに来てるんだ、とそこで思い出した。
自分から向かって右隣にシャルルカンさん、左隣にピスティさんとスパルトスさんが座っていて、暴走防止のために私は弱いお酒を飲んでいる。
「ニルヴァたん駄目だぞ〜?謝肉宴の時みたいになっちゃ」
「なっなりません!」
ピスティさんのからかいに慌てて反論するも彼女はけらけらと笑うばかりで、スパルトスさんはうんうんと頭を振った。
「ま、たまにはいいでしょ?こういうのも。最近いろんなことありすぎてニルヴァたん疲れ気味だったし」
「な。酒は百薬の長だぜ、ほらもっと飲め飲め」
「飲み過ぎれば毒になるがな…」
注がれるピンク色のお酒を眺めながら、気をつけます、と返した。
スパルトスさんは最初に比べて随分話をしてくれる回数が増えた。
こうしてお酒も一緒に飲んでくれるようになって嬉しい。
目を合わせることが出来ないのは少し寂しいが、そこは仕方ない。
「しっかし、ジュダルの奴が気にかかるぜ…。いつまた来ることか」
「王様もヤムも、何時来てもおかしくない、ってしか言わないもんねぇ。ニルヴァたんも怖いよねぇ…」
「…彼は、何者なんですか?」
ずっと聞きたかった問いを投げ掛ける。
その問いにはスパルトスさんが答えてくれた。
「ジュダルは遠く東に位置する国、煌帝国の神官だ。アラジンと同じマギだが…非常にタチが悪い」
「マギなんですか?」
「ああ。だがあいつはアラジンとは真逆だ。アル=サーメンに属する、堕天したマギだ」
「アル、サーメン?」
「ここじゃあまり大きな声で言えねぇ話だな。あとで王宮に帰ってから王サマに聞いた方がいいぜ」
シャルルカンさんが突然割って入りそう言った。スパルトスさんも無言で頷き、同意を示したのでそれ以上は何も聞かなかった。
それから小一時間程談笑していると、シャルルカンさんとピスティさんの様子がおかしくなってきた。顔が真っ赤で声もどんどん大きくなっている。
二人を眺めていると、ここにいると大変なことになるからお前はもう帰れ、と小声でスパルトスさんに諭されたので大人しくそれに従い酒場を出た。