記憶の赤、愛しき人よ。

□知りたいと日常
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「わ、悪ぃニルヴァ!ごめん!そんなつもりじゃなくてだな…!!」

「だ、大丈夫です!目立つ程じゃないので…!!」

「ごめん!!な、泣くなよ…!!」


シャルルカンは慌てて彼女を宥める。
な、泣いてないですとニルヴァは首を振った。


「あの、びっくりしちゃっただけなので…!大丈夫です!大丈夫ですから」

「悪い!アイルーンの女って髪の毛命だって言ってたよな…!ごめん!!」

「そ、そんな話があるのか…?」

「いえあの、結婚の上での話です!アイルーンの男性は髪の毛が綺麗で長い女性を魅力的に感じるそうで…だから女の子はみんな髪を伸ばしているんです」

「へぇ…」

「私くらいの歳になればもうだいたいの子は結婚するんですか…私は出遅れちゃいましたからそんな」


アイルーンの仲間が見つからない以上、民族の血を繋げることは不可能であるし、結婚とかはよくわからない。
結婚式は、きれいだなあって思った。
結婚する二人の笑顔がきらきらしてて幸せそうだなって思った。
そもそも私は恋とかそういう感覚に疎いから、興味がいささか薄いのかもしれない。
女の子たちが恋話に頬を染めている時もいまいち私は首を傾げていたし。


「ニルヴァみたいな奴ってモテそうだけどなー。求婚?とかされねぇの?」

「なくはないですけど…」

「しなかったのか?」

「そういう風に見たことがなかったので」

「断るのも自由なのか…」

「恋愛結婚重視らしいです」

「へぇ…」


シャルルカンとアリババはなるほどーと首を揃えて頷いた。


「恋愛といったら、やっぱりマスルールじゃねーの?最初から噂じゃん」

「や、やめてくださいよ!なんだか変な噂が広まってるみたいですけど、全然そんなんじゃありません!困ってるんですからね」


ニルヴァは慌てて反論するが、その頬は赤く染まって…………いなかった。
どうやら彼女にその気は本当にないらしく、困っているのも事実なようだ。


「とにかく、私は無理して早く結婚をしなくてもいいんじゃないかと。普通の女性はそんなに若くで結婚しないそうじゃないですか」


ニルヴァはその場でくるりと回る。
肌と対照的に白い服のスカートと水面の輝きを放つ銀髪が舞い上がった。


「だから今は、ただここで楽しく暮らすのもありかなって!」


そう言ってニルヴァはにっこりと笑う。
シャルルカンとアリババは見惚れていた。
目の前に海があるのではないかと錯覚する美しさ、太陽に照らされた彼女の輝き。


「………?どうかしました?」

「…ああ!いや、なんでもねぇよ。その…お前ってあれだ、伝説とかに出て来る……人魚みたいだな」

「人魚?……やだ、私を食べても不老不死にはなれませんよ?」


アリババの言葉にニルヴァは一瞬きょとんとして、それからくすくすと笑った。


「先祖が人魚を捕まえたことがある、という逸話はありますけどね。私たちはちゃんとした人間ですよ」

「すげーなお前の御先祖サマ…。っと!長話しちまったな、ホラホラ続きだ続きー!!」


シャルルカンさんの言葉で私たちは再び鍛練を再開した。
今日は日差しが格段に強くて蒸し暑い。
こんな日は森で木漏れ日の下での昼寝が最高だろうなと思った。




    *   *   *




森に出向くと、その最高な時間を味わっている二人がいた。


「いたいた、マスルールさんとモルジアナちゃん」


赤い髪の同じファナリスであり師弟関係の二人。
傍らにしゃがみ込み、顔を覗き込む。
草っ原に並んで身を横たえ、モルジアナちゃんはマスルールさんの腕に包まれている。
こうして見ていると、本当に兄妹に見える。
自分もこうして弟や妹を抱いて寝たことを思い出して、思わず笑みが零れた。


「……何だかもう、妬けちゃうなー」

「何がだ」

「!!!…マ、マスルールさん、起きてたんですか!?」

「お前が来たあたりから」

「言ってくださいよ…!」

「別に言う必要はないと思ったんだが…」

モルジアナを起こさないように、マスルールはそっと腕を離して肘をつき、のろのろと少しだけ身体を起こす。





 
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