記憶の赤、愛しき人よ。
□復讐 ※
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あの事件から、早くも一月が経過した。
私はアラジン君たちと同じ“しょっかく”として王宮で暮らしている。
ここで生活しながらいろんな人たちにいろんなことを教えてもらって、たくさんの新しいことを覚えた。
“だんじょん”とか“じんのきんぞくき”とか、難しいこともあるけど、とても充実している。
王宮を散歩したり、街に出て買い物をしたり、アリババさんやモルジアナちゃんの鍛練に加わったり、八人将や王宮で働く人たちとお話したりするのが今の楽しみだ。
そして今は、シャルルカンさんが見守る中でアリババさんと手合わせをしている。
アリババさんはいつも持っているアモンの剣で、私は貸してもらった短剣で。
普段から隠し持っていたナイフはあるが、剣に比べれば小さ過ぎていけないということで貸してもらった。
キン、と、短剣どうしがぶつかる音がする。
「おらおらアリババぁ!ニルヴァにスピード負けてんぞー!」
「わ、わかってますって…!」
「いけませんよアリババさん、おしゃべりする暇なんて…」
ないでしょうっ!と言って、ニルヴァが剣を横に振る。
「あっ!」
アリババの手が払われ、その手に握られていた八芒星の刻印の刻まれた短剣が飛ぶ。
その勢いで、アリババは尻餅をついて転ぶ。
「そこまでだな!ったく、お前アモンの力が無いとニルヴァにすら勝てねぇじゃねぇか」
「す、すみません…。でもこいつの速さは尋常じゃないですよ」
「まぁ、な。例のルフのこともあるしな」
「い、いえ。アリババさんは強くなっています。前より素早さも増してますよ」
「そ…そうか?」
「遠慮しなくていいぜ。アリババが弱ぇのは変わりないからな」
「ぐっ」
「私だって、アイルーンの民として戦闘術には自身があります。ルフの力のことはよくわかりませんが、それがなくても誰にも負けるつもりはありませんよ!」
「おーおー、強気だな」
シャルルカンさんは私の頭をぽんぽんと撫でて笑う。
アリババさんは尻についた汚れを手で払い立ち上がると、「ありがとうな。また手合わせ頼むよ」と言ってくれたので、はいと言って頷く。
「そうだアリババ、ニルヴァ。ジャーファルさんがアラジンたちと街に行って来たらどうだって言ってたぜ。ピスティ曰く新しい店ができたとか」
「え…いいんですか?」
「おう。今日は天気もいいし、折角だから行って来いよ」
「わぁ…ありがとうございます!」
「ありがとうございます、師匠!じゃあニルヴァ、俺はちょっと汗流して来るから、先に戻って準備してていいぜ。アラジンとモルジアナにも声かけといてくれ」
「わかりました」
そこで私は二人と別れ、アラジン君とモルジアナちゃんに声をかけながら自室に戻る。
うっすら滲んだ汗を拭いてから、先日店でシンドバッド様が買ってくれたお気に入りの服に着替える。