記憶の赤、愛しき人よ。

□目覚めて
4ページ/6ページ





「どんなに辛くても、復讐を願ってはならない。それでは海賊と同じ道を辿ってしまうよ。どうか運命を恨まないでくれ、ニルヴァ」


黄金の瞳が真摯を備えて私に訴える。
図星を突かれて、言葉に詰まる。
この人は、私の気持ちが読めるのだろうか。
運命を恨むなんて、そんなもんじゃないけど。
そんなもんじゃないけど…
暫く、海での光景は忘れられないだろう。


シンドバッド様が手を叩き、皆の注意を引きつける。


「さぁさ、暗い話は終わりだ。ニルヴァにはここで楽しく暮らしてもらうのだぞ!じゃあ手始めに、俺と八人将の紹介から始めようか」


八人将、という単語を聞いて首を傾げる。
一体どういう人たちなのだろうか。
とりあえず今わかるのは、私の寝ていたベッドを囲むようにして椅子に腰掛けているのが正にその八人将であるということだけ。


「ではまず俺から。俺はシンドバッド。もう君も知っての通り、ここ、シンドリア王国の国王だ。君のことは全力で守ると誓おう。よろしくな」


にこやかに笑って右手を差し出す。
握手を求めているのだと理解し、同じく右手を差し出して軽く握る。

シンドバッド様の次は、彼の隣に座っていたジャーファルさんから右回りに順に自己紹介することになった。


「私の名はジャーファル。どうぞよろしく」


一目見て、優しい笑顔のひとだなぁ、と思った。
肌が白くてそばかすの目立つ顔だが、それがより一層愛嬌を引き立てるように感じる。

その左隣に目をやると、そこにいた巨大なドラゴンのような姿を見て声をあげそうになった。


「ドラコーンだ。よろしく、ニルヴァ殿」

「ぁ、は、はい、よろしくです…」

「ニルヴァ、ドラコーンは今じゃこんなナリだが、元はれっきとした人間だ。まぁ、あまり怖がらないでやってくれ」


引き腰になっている私を笑いながら、シンドバッド様が付け加える。
元は人間なのか………この世界、そんなこともあるんだなぁ…。

その隣にいるのは金髪の小柄な少女。
背丈だけで判断すれば自分よりも年下だが、纏う雰囲気からして、恐らく同い年、もしくは少しだけ年上だろう。


「私はピスティ!君、年は幾つ?」

「じゅ、17歳です…」

「17歳かぁ!歳の近いお友達ができて嬉しいよ!これからよろしくねーっ!」


愛くるしい笑顔を振りまき、こちらに近付いて私の両手をとりブンブンと振る。
そんな身分の人と容易く友達になって良いのか躊躇われたが、素直に嬉しくてはにかみ頷いてしまう。

その隣にいたのは、茶髪で前髪が斜めに大きく切られて左目が隠れている、ある意味斬新な髪型の男性。


「スパルトスです。…よろしく」


それだけ言って、プイと視線を逸らされる。
……うーん、私何かしただろうか。
急にやって来た私が気に食わないのかな……

肩を落とした私に気付いて、シンドバッド様が補足してくれる。


「悪いな。スパルトスは宗教の関係であまり女性と接触できないんだよ」

「そ、そうなんですか……」


そんな宗教があるなんて知らなかった。
スパルトスさんは私の方をちらりと見て、少し申し訳なさそうに小さく礼をした。


「ピスティより年下なのに、随分大人びて見えんなぁ。あ、俺はシャルルカン。よろしくな!」

「何をぅ!ニルヴァのほうがちょっと胸が大きいからってー!!」

「ぇ…えぇっ!?」


ピスティさんの言葉に、反射的に両手で胸を覆い隠す。
シャルルカンさんは「それだけじゃねーよ」と言ってピスティさんをからかっている。

シャルルカンさんの肌や髪の色が自分のものと似ていることに気付き、問うてみる。




  
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ