記憶の赤、愛しき人よ。
□目覚めて
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「ヤムライハの言った通り、君にはこれからこの王宮で暮らしてもらう。ここが君の部屋だ。身寄りのなくなってしまった君を野放しにすることはできないからな」
後半、言ってることの意味がわからなかった。
―――身寄りがなくなった?
何を言っているんだろう、この人は。
呆然としたままの私の気持ちを察したかのように、シンドバッド様は続ける。
「君の家族や仲間たち―…あの場にいたアイルーンの民は全員、亡くなった」
全身の力がふっと抜ける感覚。
だけど起き上がっただけの姿勢ではくずおれることもなく、ただ力が抜ける、という表現しかできない。
何か言葉を発しようにも、唇がわなわなと震えて言葉が出せない。
「 」
声にならない声、というのは正にこのことなのだろう。
シンドバッド様は話すのを躊躇うように一度顔をしかめたが、再び口を開いた。
「俺たちが駆け付けた時点で、ほとんど殲滅状態だったんだ。負傷者の中で辛うじて息をしていたものも、永くはなかった。逃げ惑う民も、最期には海賊に捕まって…」
「ちょ…ちょっと!もう少し言い方を考えたらどうです?」
ヤムライハさんが耐え兼ねたように口を挟む。
私はそれに首を横に振り、震える中でできる限り柔らかく答える。
「いいんです。聞かせてください、シンドバッド様」
「……あぁ。…海賊は残党を捕らえて、今いろいろと尋問しているところさ。だけど一向に口を開く気がないみたいだ、だんまりを決め込んで動かないらしい」
呆れたように頭を掻いて言う。
………ここにあいつらがいる。
みんなを殺した、憎き奴らが。
…憎い。
憎い。
この手で殺してやれたら。
この手で内臓を抉り出してやれたら。
この手で引き裂いてやれたら!!!
布団を握る手に、爪が食い込むほど強く力を入れる。
「……………」
とその時、顔に視線を感じて、顔を上げる。
視線の先にいたのは、すぐ傍に座っていたマスルールさん。
ヌッと手がのびてきて、人差し指が私の眉間を小突く。
「い゙っ!?」
思った以上に強くて思わず声を漏らす。
マスルールさんは一度自分の人差し指を見てから、腕を下げて言う。
「…不穏な顔をしてる。お前にそういう顔は似合わない」
自分は今、ポカン、という表現が相応しいであろう呆け面をしていたことだろう。
咀嚼するまで五秒程時間が掛かったが、記憶を辿り、ついさっきまで復讐心を募らせ怒りに満ちた表情をしていたことに気付いた。
「……すみません」
「何で謝る」
「ぅ…考え事をしてたら、つい……」
瞬きをしたら飴色と視線がぶつかって、なんだかくすぐったくなって、誤魔化すように指で頬を抓る。
海賊たちへの復讐を考えていたなんて、この場で口が裂けても言えない。
「ニルヴァ」
「は、はい」
シンドバッド様に名を呼ばれ、急くように顔を上げる。