dream ather

□キスの日
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私の部屋でまったりとお互いがお互いの時間を過ごしているとき。
私は布団でごろごろしながらネトサをしていた。
ぼんやりと画面を眺めていると、今日がキスの日だという内容の見出しが目に留まる。
なんとなく釣られてその記事のリンクへ飛んでみる。
日本で初めてキスシーンが登場することになった映画が封切りされたことに由来するらしい。
戦後間もない頃のことで、随分衝撃的なことだったんだろう。
ふうん…と特に何も感嘆することなくそのページを離れようとしたときに、八田くんから声が掛けられる。

「何見てんだ?」

思わず体が硬直して、え、っと…とためらいがちな声が出る。
別にやましいことをしていた訳ではないのに、なんとなく気まずくて動揺してしまう。

「…なんか、今日、キスの日なんだって」

…え、あ、おう…と、今度は八田くんが言葉に詰まってしまった。
“キス”という単語に思わず赤面し、俯いている。
なんだか私もそれに釣られるように俯いてしまう。
しばらくして様子を窺うようにそろりと視線を上げてみる。
ちょうど彼もこちらを窺っていたらしく、ぱちり、と視線が合ってしまった。
吃驚して、動揺して、咄嗟に視線を逸らす。
でもやっぱり気になってしまって再び視線を彼の方へと向けると、タイミングを図ったみたいに。

ぱちり。

と視線が重なる。
二人して同じ挙動を取ってしまったことに、ぽかんとしてしまうも、八田くんまで同じように目を見開いて口を半開きにしているものだから、つい吹き出してしまった。
くすくすと笑う私に、気まずそうに顔を赤らめたままの八田くんがそっぽを向く。



キスの日。
なんだかちょっと、楽しいかもしれない。

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