dream ather

□花粉症
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LostSmallWorldの秘密基地で、ガスが引いてある設定。












「…っくしゅん」

伏見はくしゃみをして、ズズ、といわせながらほんのりと赤くなっている鼻をすすった。
恨めしそうに、うあーと唸りながら痒くて堪らない目をくしゃくしゃと手の甲で擦った。
眼を擦る手の動きに合わせて眼鏡が上下する。
伏見が恨めしく思っている相手とは当然、花粉のことだ。
この時期になると毎年ティッシュが離せなくなる。
パソコンを弄りながら手探りでティッシュを引き寄せようと、手を伸ばした。
たしかこの辺りにあったはず、とティッシュ箱に触れるはずだった手は空を切って、ぺたり、と床についた。
あれ、と訝しんでそちらへ目を向けようとしたとき、何者かの手によって伏見の顔にティッシュが被せられ、鼻を手で押さえられるようにティッシュがまとわり付く。
二人だけの秘密基地に存在する伏見以外の人物。当然、八田である。

「ほら、ふーんしろ。ふーん」

そう言って伏見の隣に腰を下ろした八田は、赤子に鼻をかませるのと同じようにさせるつもりらしい。
伏見が家族に甘やかしてもらわずに育ったことを知ってから、八田はやたらとこうやって構ってくる。
そんな中学生らしからぬ様子で甲斐甲斐しく世話を焼く八田の姿に、嬉しくもあるが、プライドが邪魔をして何となく素直に喜べずにいる。
好意的な八田の視線に反抗的なジト目を向けて、未だ押し付けられたままのティッシュを奪い取った。
そのまま自分で鼻をかむ。
鼻が詰まっている息苦しさから、んあー、と小さく声が漏れた。
ずる、と再び鼻をすする。

「ちゃんと鼻かまねぇと体にワリィぞ」

どことなく嬉しそうに誇らしそうに世話を焼いてくる八田に、ムスっと不機嫌な顔になる。
具体的にいうと下痢、吐き気、腹痛などの症状が表れ、消化器官に悪影響を及ぼす。
それくらい知ってる。
むすりとしたまま伏見は、八田に言われた通りティッシュを鼻に当てて、ぶーん、と鼻をかんだ。
その様子を八田は満足そうに眺めた。

伏見の髪先から、ぽたりと雫が落ちた。
よく見ると辺りの床にはポタポタと水滴が落ちた跡がある。
仕方ないな、という風に溜息を吐いた八田は、どうやらオカンスイッチが入ったらしい。
伏見が首にかけているタオルを頭に被せてがしがしと乱暴に拭った。
急にぐわんぐわんと頭が揺らされた伏見は動揺して、う、お、と小さく驚いたような声を出した。

「ちゃんと頭拭かねえから風邪引くんだろ」

「…風邪じゃない、花粉症」

すん、と小さく鼻をすする音を立てて不服そうに伏見が言い返した。

「とにかく、なんかメシ食ったら体も温まるだろ」

そう言ってロフトから降りておそらくキッチンへと向かっただろう八田を伏見は目で追った。
先程まで八田が乱暴に拭っていたタオルでやんわりと髪を撫でるように拭いた。
メシといってもおそらくカップ麺にお湯を注ぐだけなんだろう、とぼんやりと予想する。
ふと、以前実家に八田が勝手に看病しに来たときのことが脳裏を掠めた。
ロフトからひょこり、と頭だけ出すように階下を覗き込む。

「やたあ、」

「あ?」

「チャーハン」

見つめ合うこと数秒。
落ちないように眼鏡を押さえて鼻をすする。
八田はぱちぱちと数度瞬きしたあと、嬉しそうにはにかんで、おう!と返事をしてキッチンへと消えた。



「、チャーハン…?」

言外に、これが?と言っているであろうイントネーションで伏見が呟く。
その視線は明らかにパイナップルに向けられている。

「んだよ、ウチではこれがチャーハンなんだよ!いらねえなら残せよ!俺が食うから!」

半ばヤケクソに泣き言をいうかのように乱暴に言葉を吐き出した八田は、気を紛らわせるかのようにガツガツと自分の皿に盛られたそれを口の中へと掻き込んだ。

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