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□clap
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カランカラン、と音がしてBAR.HOMRAの扉が開かれる。

「草薙さん、買ってきましたよー」

私は草薙さんに向かって自分が持っていた袋を掲げる。

「お疲れさん」

草薙さんが笑顔で私に労いの言葉をかけてくれる。
八田さんと鎌本と私の三人で買い出しに行ってきたのだが、八田さんの気遣いで私は一番軽い袋を持っている。
女性への気遣いができるとか八田さんマジイケメン。
あれだけ喧嘩が強くて女性への気遣いもできるんだから絶対女性にモテる。
やべーわー八田さんマジイケメンだわー憧れるわーなどと考えながら八田さんに熱視線を送っていたら、八田さんはチラリとこちらを見たあと居心地悪そうに身動ぎした。



時刻は昼時。
集まったメンバーで昼食として恵方巻きを食べようとしていたときに、尊さんがバーに降りてきた。
十束さんが尊さんに恵方巻を勧めながらなんやかんや雑学を披露する。
尊さんは興味なさげに恵方巻を受け取って恵方を向くこともなくカウンターに座ってもくもくと食べる。
尊さんが恵方巻なんて俗物を食べている姿はなんとなく珍しくて可愛らしくて思わずじっくり眺めてしまった。

「姉さん、食べないんすか?」

「食べる食べる」

私は自分の分の恵方巻を取り出してじっと見つめる。
鎌本は既に恵方巻に齧り付いている。
なんとなく悪戯心が湧いてきた。

「…黒くて太くて長いものを頬張る鎌本」

ぼそりと溢した私の言葉に鎌本と八田さんが同時に吹き出し咳き込む。
鎌本だけからかうつもりが八田さんにまで被害が及ぶとは想定外だ。

「だだだ大丈夫ですか八田さん!」

彼女は慌てて俺の背中を摩りながら飲み物を差し出してくれる。
肩が触れそうなくらい近い距離で俺の顔を心配そうに覗き込みながら背中を摩る彼女から恥ずかしくて顔を背けた。
彼女の手が触れている背中が熱い。
この状況から早く逃れたくて、彼女から顔を逸らしたまま恵方巻に齧り付く。
その様子を見て安心したのか、彼女は俺から離れていった。
しばらくしてチラリと彼女の方を確認すると、彼女は恵方巻を食べていた。
どきり、と心臓が高鳴る。
口いっぱいに頬張る彼女の様子に、無意識に唾を飲んだ。
いけないものを見ているような気がして、強烈に視線は彼女の口元に引き寄せられていく。
彼女に、釘付けになる。

「八田さん、食べないんすか?」

鎌本の声でハッと我に返った俺は、食べかけの恵方巻を持った鎌本の手元に視線を向ける。

「ああ、これ3本目なんす」

一本目は黙って食べ終えたということか。
それにしても鎌本の食欲は限度というものを知らないのか。





恵方巻を食べたあと、なんとなく小腹が空いていた私はボリボリと豆を食べていた。
十束さんが尊さんに雑学を交えながら豆を勧める。

「節分は豆まきが有名だけど、歳の数だけ豆を食べて無病息災や厄除け祈願もしたりするんだよ」

あっやべ、何粒食べたか数えてないや

尊さんは興味なさげに、ふーんと鼻を鳴らす。
そして小分けにされていた袋を開けるとざらざらと豆を口の中に流し込んだ。
一瞬呆気にとられた十束さんは、腹を抱えて大笑いする。

「…いちいち数えんのなんて面倒くせえだろ」

拗ねたように尊さんが呟くのを見て、なんだか今日は珍しいものを見てしまった気がした。
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