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□clap
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今日も今日とて八田さんと私と鎌本の三人は街中を並んで歩いて巡回していた。
私と鎌本は八田さんの連れ、といったかんじだ。
他愛もない会話をしながらぶらつく。
主に私と鎌本が。
私が八田さんを賛美し、鎌本がそれに突っ込み、八田さんがドン引きして距離をとる。
これが私たちの日常だ。




ふいに、水滴が鼻先をかすめた。
雲行きがどうにも怪しいとは思ってはいたが、とうとう降り始めてしまった。
ここからBAR.HOMRAまではそんなに距離があるわけでもないから、走ればたいして濡れずに済むだろう。

「うわー雨ですね。八田さん、走りましょう」

私は八田さんに声をかけて走り出そうと身構える。
それに対して八田さんは何故か徐に腰に巻いていた上着を脱いだ。

「女なんだからそれ雨よけにでも使え」

そう言いながら上着を差し出してくる。

「そそそそんな滅相もない!私は大丈夫ですから、八田さんが使ってください!むしろ私の上着も使ってください!」

上着を受け取るどころか着ていた上着すら脱ぎ始める彼女に、八田はぎょっとして顔を赤く染め上げた。

「おおお女がこんな街中で脱ぐんじゃねえ!」

ひどく吃りながら叫ぶように紡がれた言葉からは、八田がひどく動揺している様がありありと物語られていた。
普段なら女性に触れるなんて以ての外なほど女性に免疫のない八田であるが、今回ばかりは背に腹は代えられぬと、彼女が脱ごうとする上着の裾を引っ張って無理やり着させた。
ついでに自分の上着を押し付ける。
彼女はしばらく手にした上着と八田を交互に見ていたが、諦めるように上着を眺めてから頭から被った。
それを確認してからそれぞれ走り出す。
体重がある分やはり鎌本は遅かったが、置いていっても問題はないだろう。
きちんと彼女がついてきているか横目で確認する。
横目で見た彼女は上着を口元に当てていた。

「おい、お前なにやって…」

「なんだか…八田さんの上着からいい匂いがします」

「はあっ!!?」

落ち着き始めていた顔色が再び一瞬で真っ赤に染め上げられる。
恥ずかしさは先程の比ではない。

「やめろばか!」

羞恥心から叫んだ八田であったが、彼女が濡れてしまうのは忍びなくて結局バーに着くまで彼女に上着の匂いを嗅がれてしまうのだった。










「あんなに匂い嗅がれたら八田ちゃんもうお婿に行かれへんなあ…」

「大丈夫です八田さん安心してください!私が責任持って娶りますから!」

「姉さん、全然大丈夫じゃないっすよそれ」









娶る(めとる):嫁に貰う
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