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□clap
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ショッピングモールの紳士服売り場の一角で、若い男女が楽しそうに話している。
…楽しそうに話しているのは女性で、男性の方はあまり乗り気ではないようなのだが。

「ね、ね、八田くん、次これ着て!絶対似合うと思うんだよね〜!」

「げ、まだあんのかよ…」

「もちろん!まだまだあるよ!」

「うえ…マジかよ…なーもういいだろ帰ろうぜ」

「えっ!?えええええやだやだやだ!まだまだ色んな格好良い八田くん見てたい!!」

「はっ…!?お、おま…!!」

さっきまで彼女の着せ替え人形として何度も着替えさせられてぐったりとしていて、どちらかというと青くなっていた顔色が、一気に真っ赤に染まる。
何言ってんだ、と続くはずだったが、八田の口元がわなわなと動いているせいで発することは成されなかった。
八田の脳内で、格好良いという言葉が彼女の声でぐるぐると再生される。
一瞬、ほんの少しだけ八田の口元が緩んだ。
彼女が八田に声を掛けようとしたところで、八田が、もう着ねぇからな!と言い放つと同時に更衣室のカーテンをピシャリと閉めた。
更衣室内の鏡に手を付いて項垂れながら大きく息を吐く。
鏡には赤面した八田の顔が映っていた。
彼女に言われた、格好良いという言葉が嬉しくて、口元がだらしなく緩む。
ぼんやりと、しばらくここから出れそうにねぇな、なんて思った。



後日

「おい、鎌本、ちょっと付き合え」

「いいっすけど、どこ行くんすか?」

「…ちょっと、服屋、だ」

「は?」






八田ちゃんはコーディネート云々よりも機能性を重視してそうですよね。
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