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□clap
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前回の拍手お礼文の続き。






十束さんが強引に取り付けた約束に、彼女は嫌な顔ひとつせずにバイト終わりの俺を待ってくれていた。
夕方の海は人も疎らで、彼女と二人で歩く気恥かしさをほんの少し和らげてくれていた。
夕焼けが海面と彼女の横顔を朱く染めている。

「ね、ね、八田くんってサーフィンできるってほんと?」

「え、あ、まあ…」

何故彼女がそんなことを知っているんだろう、という素朴な疑問に

「あ、十束さんが教えてくれたの」

と八田が聞き返すまでもなく教えてくる。
彼女の口から発せられた十束さんという言葉に嫌悪感を覚える。
なんというか、すごくもやもやする。
昼間の十束さんと彼女のまるでカップルそのものといったような後ろ姿が脳裏を掠めた。
俺が二人で彼女と歩いてる姿は、カップルに見えるんだろうか。
そこまで考えてふと、かーっと身体が熱くなる。
俺と彼女が、か、かかか、カップルなんて!何考えてるんだ俺は!
八田は顔が赤いのを誤魔化すように髪を掻き上げた。

「サーフィンしてる八田くん見たいなー」

頭上で指を組んだ彼女が伸びをしながらそう呟いて、ちらりと視線をこちらに向ける。

「お、おう!任せろ!」

八田は動揺を誤魔化すように上擦った声を押し出した。


波に乗ってパフォーマンスをして彼女の歓声を聞いて。
浮ついた気分で砂浜にいる彼女の方へ戻る。

「すごい!八田くん格好良いー!」

彼女から格好良いと直接言われてなんだか嬉しいような恥ずかしいような。
胸のあたりがくすぐったくなって頬を掻いた。

「私にもできるかなー」

そう言いながら俺が持っていたサーフボードを手に取った彼女は可愛らしくボードとにらめっこする。

「いや、まあ、能力も使ったりしてっから」

「そっかーじゃあ私には無理かな」

あからさまにしょんぼりと項垂れる彼女を見て思わず

「その代わり、いつでも見せてやるからよ、」

思わず口をついて恥ずかしい台詞が滑り出す。

「また、海、来ようぜ」

ぽかん、といった擬音語が似合うような顔をして彼女が八田を見遣る。
言い終わったあとに、八田は自分の言ってしまったことの恥ずかしさに気付いて、あ、いや、その、なんでもねえと言いかける。

「うん」

心底嬉しそうに、満面の笑みで彼女が頷いた。
ドクン、と心臓が高鳴る。
生唾を飲み込んだ。
思わず息を吸い込み、想いを伝えそうになる。
中途半端に開いた口からは言葉は出てこない。

本当に言っていいのか

結局何も言うことのできなかった口を固く閉じ、唇を噛み締めた。
きっと、来年の夏、またこの場所で…

今度こそ
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