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□clap
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「らっしゃーせー、焼きそばいかがっすかー」

さんさんと日差しが降り注ぐ真夏日。
八田はじゅうじゅうと美味しそうな音を立てながら手際よく焼きそばを焼いていた。
この時期の海の家のバイトは過酷ではあるが時給がとてもいい。
金欠の八田にはもってこいのバイトだ。

「焼きそばひとつください」

「はい、焼きそばいっちょー…」

女性客の注文の声に顔を上げた八田は、彼女を目に留めると驚きのあまり目を見張り言葉が尻すぼみになる。

「え、おま、なんでここに!?」

「あ、やっぱり八田くんだ!」

えへへーと嬉しそうにはにかんだ彼女に目を取られていると、焼きそば焦げちゃわない?と言われて慌てて作業に戻る。
ヘラと鉄板が当たる金属音と焼きそばが焼ける音が食欲を唆る。
きらり、とヘラが太陽光を反射した。

「あのね、吠舞羅のみんなと来てるの」

「そうそう、急に海に行きたくなっちゃってさー」

そう言いながら十束が姿を現す。
あ、焼きそば10個追加ね、と注文を挟みながら話を続ける。

「いやー、草薙さんがスイカ貰ったらしくて、せっかくだからスイカ割りしようって話になってさ。ついでにせっかくだから海に来てみました」

十束さんが楽しそうに提案する姿とアンナが目を輝かせている姿が目に浮かぶ。

「あ、ちなみに八田はバイト何時までなの?」

「5時までっすけど、」

「じゃあ、バイト終わったら二人で泳ぎなよ」

「は、ちょ、十束さん何言って、」

十束は言うが早いか、出来上がった焼きそばをさっと取って楽しそうに去っていく。
その焼きそばを持つ反対側の手には彼女の手が握られている。
嫌がる素振りも見せず、半分持ちましょうか、なんて言っている彼女と十束さんはどう見てもカップルで。
悔しくて、誰に対してでもなく八田は舌打ちをした。
それと同時にバイト終わりに二人で泳ぐという約束を思い出して赤くなる頬は、この容赦なく降り注ぐ日差しのせいにしてしまいたかった。
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