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□clap
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尋常ではない人混みの中はぐれないようにと繋いだ手を、ぎゅ、と握り直した。
緊張で八田の手は汗をかいてしっとりとしている。
道の端にはちらほらと屋台も見受けられるが、この人混みではとてもじゃないが寄っている暇はなさそうだ。
一向に進む様子のない列の先を見遣って溜息を吐いた。
ふいに鐘の音が耳に入ってきた。

「除夜の鐘って、人間が持つ108つの煩悩を落とすために突くんだよね」

隣で彼女が白い息を吐き出しながら呟く。

冷たい空気の中、鐘の音を聞いているとなんだか胸の内が澄んでいくような気がした。
自分よりも幾分温度の低い彼女の手が、柔らかい優しい手が、意識を掻き乱す。
この欲求も、この鐘の音を聞いていたら綺麗に洗い流してくれるんだろうか。

顔を上げると、新年を迎えたばかりの夜空が広がっている。
まだあと数時間は日が昇るまで時間がある。
初日の出も一緒に見たいとせがんでくるであろう彼女を思うと顔が緩んだ。
今日はまだあと数時間は一緒にいられる。

初日の出を見たあとは朝食に誘おうか。
そのあとは新年の挨拶がてらHOMRAに寄ろう。
そして一緒に昼食を食べよう。

そんな風にずるずると一緒にいる時間を伸ばそうと考えてしまっている俺は、108つの鐘では煩悩が落としきれないんじゃないだろうか。
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