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□short
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※ちょっとだけディープキス表現がでてきます。




















ヒロインは、なんというか、よく分からないやつだ。
普段は言葉遣いも丁寧で、所作も同じく。
何より屈託のない笑顔が、彼女をまるで天使みたいに純粋で清らかな存在に思わせるのだ。

それに対して、吠舞羅の男だらけの会話に平気で入ってくるし、あまつさえ下ネタにすら怯むことなく割って入ってくるのだ。
しかも、純粋なイメージからは考えられないくらい、知識が豊富だったりする。

この二面性から、彼女に関する下世話な見解は全くの謎に包まれていた。
まあ、意外に経験豊富って言ってるやつが大半を占め、一通り経験は済ませているだろうという見解でまとまった。(当然、信者達からは猛反論された。)
しかし、その割にはガードが固かったりする。
吠舞羅の中で彼女の浮ついた話はまだ聞いていない。

この通り、彼女はなんというか、よく分からないのだ。
















軽く、ドアを数度ノックする。

「ヒロインさーん、昼飯っすよー」

ヒロインがいるであろう部屋のドアを開けると、彼女はソファの上で毛布にくるまって寝ていた。

「早く行かないと草薙さん怒りますよー」

一応要件を伝えてはみたものの、彼女はいっこうに起きるようすをみせず、静かに寝息を立てている。

それにしても、こんな男所帯でグースカ寝やがって、無防備にも程があるだろ

なかなか起きる様子を見せない彼女を観察する。
うっすらと口を開けて、呼吸に合わせて小さく肩を上下させている。
普段は面と向かって顔を合わせると恥ずかしくてつい顔を背けてしまいがちだが、今なら彼女と目が合うことがないのでいくらでもジロジロと不躾な視線を送ることができた。

ぱさり、と髪が落ちてきて、ヒロインの口に入りそうだ。
無意識に髪を退けようと手を伸ばした。

「八田、くん」

びくり、
急に自分の名前を呼ばれて硬直する。
まだ彼女には指一本触れていない。
が、あらぬ嫌疑をかけられても困るのでさっき伸ばしかけた手は勢いよく引っ込めた。
どぎまぎしながら、

「ヒロインさん、起きてるんすか」

と声をかけてみるが、反応はない。
寝言だったのだろうか。
それにしても寝言で自分の名前を呼ばれるというのはなんともくすぐったい気分になるものである。
高まる心音をそそのままに、八田は再びヒロインの観察を続ける。

今、この口で俺の名前を呼んだんだな

つい、と彼女の唇へ指を滑らせる。
感じたことのない柔らかさだった。
乱暴にしたら簡単に壊れてしまいそうで、八田はゆっくりと優しく彼女の口元でしばらく指を滑らせて遊んだ。
そこで、ふと、誰かの言葉を思い出す。

いやー、さすがにあの歳で何もしてないわけないっしょ
一通り経験してるって

俺の知らない誰かと、ヒロインは

そう思うと自然と体が動いていた。
いけないことだとは分かっていても、そうせずにはいられなかった。
ほんの2,3秒触れていた唇をゆっくりと離す。
口付けるために顔を近付けたら彼女の髪からなんだかいい匂いがした。
彼女から顔を離してから途端に罪悪感が込み上げてきた。
気まずさから立ち去るために、立ち上がって後ろを向いたときだった。

ヒロインが八田の手を掴んだ。

驚いた八田は勢いよく彼女の方へ振り向く。
今起きた、という様子ではなかった。
ヒロインが笑いかけたことでそれがより確定事項へと近付く。
いつもなら天使のようないつまででも見ていたくなるような笑みなのだが、今だけは彼女の後ろに地獄が待っていそうに思えた。

「ファーストキスってさ、檸檬味じゃないんだね」

「は、…?」

私の言葉に意表を突かれたのだろう。
八田くんは、ぽかんと口を大きく開けていた。

「味、よく分かんなかったからさ、もう一回」

八田くんに笑いかけながら、ね、と言えば彼は顔を赤らめて吃り始めるのだった。












ちゅ、といやらしいリップ音が室内に響く。
八田はおそらく唾液が溢れるのを気にしない性質なんだろう。
ヒロインは時折、ちゅ、と音を立てて溢れないように唾液を吸い上げた。
何度も角度を変え、繰り返し唇が重ねられる。
ヒロインがはむ、と八田の下唇を上下の唇で咥える。
そのままはむはむと口を動かしていると、牽制するように八田にぺろりと唇を舐められた。
一度ほんの少し離れた唇は、八田が仕返しと言わんばかりにヒロインの唇をはむ、と咥えることで再び繋がれた。





しばらくして、お互いに息が上がったところで自然と唇を離した。
ヒロインが目を開けると八田の情熱的な視線とかち合った。
おそらく私もなっているのだろうが、八田くんの頬が上気していていっそう色気を放っていた。
しばらく見つめ合っていると、恐る恐るといった様子で八田が今までしっかりと肩を掴んでいた手をヒロインの背中に回してくる。
その動きに合わせるように顔を八田の首筋に埋め、自然な動作で抱き合う。
目の前にあった首筋に唇を這わせ、鎖骨まで下りてきたところで軽くリップ音を立てた。

「あああ痕つけんなよ、」

なんて言ってきた初心な彼に、

「大丈夫、そんなに強く吸ってないし、タトゥーの反対側だから多分見えないよ」

なんてくすくすと笑いながら返す。


「お前、さっきのが初めてとか、絶対嘘だろ」

「あー…私、耳年増だからねー」

そう言ってへらへらと笑う彼女に、ほんとかよ、と悪態をつくのだった。













あとがき(memo12/14)
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