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崩壊の続きのつもりです。
※ひたすら八田ちゃんといちゃつくだけ。










BAR.HOMRAのとある一室、主に尊が使用している部屋で、周防尊は白く濁った息を吐き出した。
彼の手には静かに火を灯し燻る煙草が握られていた。
そんな彼の隣で同じようにベッドに腰掛けているヒロインは、彼女が手にしている本にじっと視線を落としていた。
ゆっくりと、視線が文字を辿る。

尊に安眠を提供することのできるヒロインは、しばしばこうして彼に寄り添ってゆったりとした時間を過ごす。
彼に少しでも休んでもらいたくて、ただじっと傍にいる。
最初の頃は尊から、気を使うな、とか色々言われたけれど、粘り強く続けるヒロインに観念した尊は彼女の隣でありがたく休ませてもらっている。


睡眠前の一服を軽く済ませた尊は、部屋の出入り口の方へ背を向けて横になる。
ぎしり、とベッドのスプリングが音を立てた。
彼女はただ、相変わらず静かに視線を本に落としていた。
そうして直に寝息が聞こえてくる。
本から視線を外すことなく、彼女は安堵するように微かに目を細めた。




ゆったりとした二人掛けのソファーで、ヒロインは八田の方へ距離を詰める。
恥ずかしそうに八田が小さく身動ぎした。


BAR.HOMRAでいつもみたいに溜まっていたら八田が、今日はこれから漫画喫茶に行く予定だと言ってバーを出ようとした。
それをすかさず、私も行くー!と言ってヒロインが強引について来てしまった。
挙句に、二人部屋をとってしまった次第だ。


緊張して落ち着かないらしく、八田は漫画を手に持って開いているのにも関わらず視線をあちらこちらに漂わせていた。
そんな挙動不審な八田の様子にヒロインはくすりと笑みを溢す。
ほんのりと頬を染めた八田は恨めしそうに彼女に視線を投げかける。
そんな八田の様子に、ヒロインは堪えられないとでもいうようにけらけらと笑い出した。
彼女にからかわれるのが悔しくて八田はソファーから立ち上がって、どかっと床に腰を下ろした。
今度はなんとか漫画に視線を固定して順にコマを追っていく。

これで一時休戦。
八田はそう思っていたが、どうやら彼女の中ではまだ続いていたらしい。

ヒロインは床に座っている八田の後ろから覆い被さるように抱き締めた。

「うおわっ!?」

突然の抱擁に八田は驚いて身体を強ばらせて間抜けな声を上げる。
彼女は嬉しそうに笑い声を上げながら八田の首元に回している腕にきゅ、と力を込めてより強く彼を抱き締める。

「私も同じの読むー」

からかうように彼の後ろから言えば、耳まで真っ赤に染め上げた彼は小さく身震いした。

「ばっ、か、これ、貸してやるから、」

そう言って本を閉じてぐいぐいと後ろに押し付けてくる。
あまりにも可愛らしい彼の様子に笑いが止まらなくてくすくすと笑いながら、

「えーいいよーいっしょに読もー」

などと返していたら、勢いよく彼が振り向きざまに私の口元を掌で塞いだ。
いきなりのことに驚いて閉口する。
改めて彼の顔を正面から見てみたら、真っ赤に染め上げた顔で目元にはうっすらと涙が滲み、口元はわなわなと震えていた。
立ち竦む私に漫画を押し付けて八田くんは個室から出ていこうとする。
私は慌てて彼の手を掴んだ。

「八田くん、ごめ、」

ここまで彼を追い詰めるつもりなんてなくて、焦ってとりあえず謝ってしまう。

「いい、」

小さく呟いた彼の言葉からは、早く手を離してくれと言外に告げているような気がした。

「どしたの?」

後ろから抱き締めるだけでこんなに動揺させてしまうなんて、さすがに八田くんでも考えられない。
何が彼を追い詰めたのか分からなくて彼に聞いた。

「…息」

「へ?」

「息、が…!」

彼の真っ赤になった耳を見ていて、はっと気付く。
私が後ろから抱き締めて笑ったり喋ったりした息が彼の耳に真面にかかってしまっていたんだろう。

「あー…、ごめん」

今度は正面から抱き締めて、あやすように彼の背中をゆっくりと撫でた。




何故かはよくわからないが抱きついてきたヒロインの背中に腕を回して首筋に顔を埋める。
柔らかくて抱き心地がいい。
ヒロインの匂いで肺が満たされていく。
大きくひとつ深呼吸をした。
ふいに鼻をついた煙草の香りに顔を顰める。
今日は草薙さんは彼女のいるところで煙草を吸ってはいない。
尊さんの部屋からいっしょに降りてきた彼女を見かけたことを思い出す。
今日も彼女は尊さんの仮眠に付き合っていたのだ。
急に腹の底を重苦しい何かがぐるぐると渦巻く。
ああ、ダメだ。気分が悪い。

これ以上彼女に付着した他の男の匂いを吸っていたくなくて、彼女を離す。
ヒロインが不思議そうな表情でこちらを伺ってくる。

「なあ、今日、尊さんとこにいたのか」

「え、うん」

戸惑うような彼女の表情に、肯定する言葉に、苛立ちが募る。
結局彼女にとって俺はその程度の男なんだと、彼女の中の一番にはなれないのかと、どうにもならない憤りが腹の底から今にも溢れそうになる。

ここで彼女の唇でも奪ってしまえば、彼女は俺のことをもっと意識してくれるのだろか。
俺だけを見てくれるのだろうか。

ふと、誰かが言っていた言葉を思い出す。

彼女とキスする前はこの煙草吸うようにしてんだ
この種類結構女受けいいんだぜ
まあ、いつものやつでキスして苦いって言われんのもそれはそれでいいんだけどな

尊さんとヒロインにもそんなやり取りがあったんだろうか。
嫌な妄執はどんどん募っていく。

今この瞬間も、彼女の瞳には俺ではなく尊さんが映っているのだろうか。

彼女の頬にそっと手を添える。
瞠目したヒロインは身を強ばらせる。
拒絶してくるような彼女の態度に、自分ではどうやっても敵わない相手に、悔しさが胸を締め上げた。
悔しくて、感情に任せて乱暴にヒロインの唇を奪った。
さらに体を強ばらせる彼女にまたずきり、と胸が痛む。
ゆっくり唇を離す。
怖くてヒロインと目を合わせることができない。
きゅ、と唇を噛み締めた。

何やってんだろう、俺
ヒロインが好きなのは尊さんなのに

きゅ、と服が引っ張られる感覚がするのとほぼ同時に、ヒロインの頭が胸元にもたれ掛かってくる。

「だめ、不意打ちはずるいよ」

彼女はそう弱々しく告げてゆっくりと顔を上げて睨んでくる。
真っ赤な顔で上目遣いで睨まれても全然怖くない。
むしろ…
どくん、と心臓が高鳴る。

思わず彼女の顎に手を添えて親指で唇をなぞる。
期待に胸が高鳴る。
互の熱い視線が絡み合う。
ゆっくりと唇を重ねた。
啄むように何度も軽く口付ける。
べろりと彼女の唇を舐め上げれば、彼女はきゅ、と服を握る手に力を込めた
ヒロインの息が上がってきているのか、苦しそうに喘いだ。
その声に、その仕草に下半身が疼くのを感じて、この部屋って防音だったっけな、なんて思考を巡らせるのだった。

















あとがき(memo1/19)
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