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※SIDE:REDネタバレ有。

※ヒロインがヲタくさい。


















「んだよ、なんでお前いちいち俺に突っかかってくるんだよ」

「それはですね、伏見くんに是非ともお願いしたいことがあってですね」

「はあ?」

「フン、お前が八田さんと同中で親友だったことは割れてんだよ!」

「…だったらなんだよ」

「そして、吠舞羅にさっさと馴染んでしまった八田さんと連む機会が減っていることも」

伏見は忌々しそうにチッと舌打ちをし、ヒロインはしたり顔でふふん、と鼻を鳴らした。

「そこで、提案なんですがね、伏見くんが八田さんとよりを戻すために私ができる限り支援しようと思うんです」

伏見は怪訝そうな顔をする。
なんでお前がそんなことするんだ意味分からん、とでも言いたそうな顔だ。

「交換条件として、伏見くんが知ってる八田さん情報をいただきたいのです!」

爛々と目を輝かせながら彼女が言った。
それに対して、伏見は面倒くさそうに溜息を一つ吐いた。

「知りたいことがあるなら本人に聞けばいいだろ」

そう吐き捨てて立ち去る伏見を、え、ちょっ、まっ、などと口に出しながら彼女は慌ただしく追いかけていった。












「八田さんがこの間買った新作のゲーム、八田さんのペースなら、そろそろ通信でレアアイテムがゲットできるようになってる頃合だと思うんですよ。レアアイテムをプレゼントして、八田さんに近付くチャンスですよ!」

「いや、俺ゲームやんねぇし」

「私のゲーム貸してあげますから!」

ヒロインは無理矢理に伏見にゲームを押し付けてくる。
彼女のことだから、既にクリア済みのデータが入っているのだろう。

「お前が行けばいいだろ」

「えっ、わ、私ですか!?いいいいいいえそそそそんな私なんかが八田さんに話しかけるだなんて恐れ多い」

ひどく吃りながら両手を必死に動かすヒロインに、伏見は呆れ顔で、はあ、と溜息を溢すのだった。










「八田さんが集めてる、明後日発売の漫画の最新巻をいち早く入手してきました!これで八田さんに、」

また、いつものが始まった。
苛立たしげに舌打ちをした伏見は、お前が行ってこい、と彼女を八田の方へと押し出す。
うわっ、などと可愛げのない声を上げたヒロインは、なんとか転けないように体勢を立て直すことに成功したが、そのまま八田の目の前まで出てきてしまった。
八田から不思議そうな視線を向けられる。
ヒロインは八田と目があったことで、うあ、と小さく戸惑いの声を出しながら顔を真っ赤に染め上げた。

「あの、これ、明後日発売の最新巻なんですけど、」

ヒロインがおずおずと手に持っていた漫画の表紙が見えるように八田に向ける。


「おっ、それおもしれぇよな!俺も読んでるんだけどよ」

漫画を見た八田は、楽しそうに顔を綻ばせてヒロインに話し掛ける。
えっ、ええ、これ面白いですよねと、かなり吃りながらヒロインが答える。
そのまま、あのシーンはどうだ、あのキャラのセリフがどうだ、と八田の話に熱が入り始める。

「あっ、あの、良かったらこれ、いりませんか?」

漫画の話を八田が振って彼女が相槌を打っていたのが、彼女の突拍子のないひとことで一瞬、八田は少し目を見開いてきょとん、といった表情をした。

「え、いや、でもワリィしよ、」

「私、これ何冊も買っちゃったので、余ってて、」

「んー…そうか?ワリィな」

しばらく悩んでいた八田は、彼女の言葉に甘えることにして漫画を受け取った。
受け渡すときにほんの少しお互いの指が触れた。
ヒロインは大袈裟なほどにびくり、と体を硬直させて、それこそ頭の頂辺から爪先まで真っ赤にする。
彼女ほどではないが、八田の方も体を強ばらせて顔を赤く染め上げる。
おずおずといった様子で漫画から手を離したヒロインは、消え入りそうな声で、すみません、と口にする。
八田も、同じように呟くような声で、お、おう、とだけ返す。
あからさまに初々しい雰囲気を醸し出す二人に、伏見はまた一人舌打ちをするのだった。












あー…、ダメだ、苛々する
人前で堂々といちゃつきやがって
そのくせなかなか発展しないし
しかもどちらも無自覚だってのがタチが悪すぎる

美咲と俺の仲を取り持つんじゃなかったのかよ

あの話を持ちかけられたときは、何言ってんだこいつって思いながらも、これを利用しない手はないと思った
俺とヒロインの接点なんてそれくらいしか無かったから
ヒロインと話すための口実ができたって思った
それなのに、

幸せそうに美咲の話をするあいつを見てると、どうしようもなく苛ついた
いっそ、美咲に振られたら俺のこと見てくれるんじゃないかって

そんなはずないのにな









「伏見くん、伏見くん、」

俺の苛々の元凶が小走りで近付いてくる。

「どうしようほんとやばいんですけどちょっと聞いてください」

だらしなく緩んだ顔を晒しながらヒロインが早口で話し掛けてくる。
苛ついた俺は不機嫌な顔で彼女を一瞥したつもりなのだが、幸せ絶頂の彼女は気付いていないようでそのまま話し続ける。

「八田さんがこの間の漫画のお礼にってお菓子くれたんですよ!どうしようまじやばい」


こいつ、人の気も知らないで

いい加減にしろ


少し離れたところにいた美咲にも聞こえるようにわざと大声でヒロインに向かって言葉を放つ。

「童貞くさい美咲には、処女くさいヒロインがお似合いなんじゃねえの?」

たっぷりと嫌味を込めて言い放った言葉に、その場にいた奴らが凍りつく。
一拍置いて顔を赤らめた八田が伏見に食ってかかったが、その頃には伏見はさっさとバーをあとにしていた。












「伏見くん、いた!」

随分と探し回ったんだろう、ヒロインは息を切らしながらこちらへ走ってきた。

「八田さん、怒ってるけど、」

美咲の名前がヒロインの口から出たことでまたイラっとする。

「…知るか」

「なんであんなこと言ったんですか」

「…うるせえな、なんでお前いちいち俺に突っかかってくるんだよ」


美咲が好きならさっさとくっついてしまえばいいのに

なんでわざわざ俺を苦しませるようなことをしてくるのか

これは嫌がらせなのか




「だって…、伏見くんとなら萌え語りできるかな、って、」

「…は?」

全く意味の分からない言葉に、伏見は素っ頓狂な声を漏らす。

「伏見くんなら、八田さんの魅力について語り明かせると思ったんです!八田さんとも仲良くなりたいけど、それよりももっと伏見くんと仲良くなって八田さんについていっしょに萌え萌えしたいんです!」

なんとも突飛なヒロインの発言に、伏見は開いた口が塞がらない。
ちょっと、目眩さえしてきた。








俺、なんでこんなやつのこと好きになったんだ












それでも、八田とヒロインが近いうちにくっつくことはないだろうことが分かった伏見は、自分だけ仲間はずれにされることはないのだと、心の中でそっと安堵して息を吐くのだった。


















あとがき(memo1/12)
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