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□short
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(諸事情によりヒロインちゃんを起こしに来た八田くんですが、出来心で無防備に寝こけているヒロインちゃんの口元を指で撫でているうちに欲情しちゃうお話です。)





















差し入れられた親指で口内からゆっくりと唇をなぞる。
唾液が静かな室内で小さな音を立てた。
本来ならとても微弱な音量であるはずだが、今の八田には高性能のヘッドフォンで聞いているかのようにいやに耳についた。


口内に溜まった唾液を嚥下するために軽く口が閉じられ、親指との密着度が増す。
そのまま唾液を嚥下したので口内の気圧が下がり自然と親指に吸い付くような形になる。
下半身に甘い衝撃が走った。

鼓動がまた早くなる。

軽い悪戯心で始めたものが、既に理性はふにゃんふにゃんで目の前の欲の奴隷になっていた。
もっと、もっとと本能が急かす。
親指を舌の裏側に差し込む。
くちゅり、という唾液の音と彼女の粘膜に包まれていることでまるで彼女を犯しているかのような錯覚を覚えた。
彼女に挿入したいと本能的に思っているのだろう、ほんの少し下半身が熱を持ち始めた。
そのまま親指を動かして下顎と舌との空間を楽しむ。
その度、くちゅり、くちゅりと粘膜が音を立てた。
最初は恐る恐るだった親指の動きがどんどん大胆になっていく。
もっと、もっとと強請る本能の赴くままに。

再び彼女が口内に溜まった唾液を嚥下する。
もっと、もっと強く吸い付いて欲しい。
さっきはあんなに興奮したそれも、今となっては物足りないものになっていた。
そして、八田自身もつられる様に唾を飲んだ。

そのときだった。
ヒロインがぱちりと目を開け、半目でこちらを見やる。
二人の視線がかち合い、コンマ数秒ほど時間が止まった。
八田は反射的に親指を口内から引き抜いたが、彼女の意識が覚醒してしまっている以上知らぬ存ぜぬでは通らないだろう。
先ほどとは違う意味で心臓が早鐘を打ち、じわりと嫌な汗が滲む。
何か言い訳がしたくて何度も口を開くが、言い逃れできそうな言葉が見つからずその度に口を閉じる。
八田が言い訳を探して視線を彷徨わせている間、彼女は眠そうにぱちぱちと半目で八田へ視線を投げかけながら瞬きを繰り返していた。


「おはよ」

先に沈黙を破ったのはヒロインだった。

「あー、おはよ」

気まずそうに八田が返事をする。
ヒロインは比較的ゆっくりと起き上がり、そのまま緩慢な動きで口元に手を当て、もう片方の腕で思いっきり伸びをしながら大きな欠伸をする。
その動作を見て、ヒロインの寝込みを襲ってしまったという事実を突き付けられた気がして罪悪感に思わず体を縮こまらせた。

ベッドから抜け出したヒロインは近くにあったサイドテーブルまで歩く。
その上にあった水が目的物だったようで、ペットボトルを手に取るとこくりと喉を鳴らしながら水を飲んだ。
その嚥下する動作に先ほどのことが脳裏をかすめるが、それはもう真夏の蜃気楼でも見ていたかのように今の自分には手の届かないものとなっていた。

一貫してゆっくりとした足取りでベッドまで戻ってきた彼女はそのままゆっくりと腰掛ける。
ぎしり、とベッドのスプリングが音を立てた。
ヒロインが起きてから身動きをしない俺に加えて彼女も動きを止めてしまったため、気まずい沈黙が訪れる。
ちらりとヒロインに視線をやると、ヒロインはさっきから俺を観察していたらしかった。
俺のふくらはぎ辺りにあった視線が徐々に上がってきて俺の視線とかち合う。
ヒロインを見ていたことがなんとなく後ろめたくて思わず視線を逸らしてしまった。
そのままどこということなく視線を彷徨わせる。

ふいにヒロインがぎしりと音を立てながら距離を詰めてきた。
お互いの肩と太ももあたりが触れ合う。
緊張で心臓が締め付けられる感覚がした。
そのままヒロインはゆっくり、ゆっくりと俺にもたれ掛かるように体重をかけてくる。
肩の密着度がゆっくりと増していく。

「おい、」

思わず静止の声が出た。
ヒロインが何をしたいのか全く訳が分からなかったから、軽く混乱していたのだ。

「なにー?」

俺と目を合わせるように顔を上げて返事をする。
自然と上目遣いになっていた。

「いや、なんだよ」

相手の意図を聞きたいのはこっちである。
何故もたれ掛かってきたのか、という意味合いを込めて触れ合っている肩に視線をやりながら言う。
すると彼女は、

「いやだった?」

なんてきょとんとした顔で、なんでもないように聞いてくる。


結局ヒロインの意図は分からなかったが、彼女がなんでもないのなら甘んじて享受しようと、そう考えることにしたのだ。



























(いやじゃない、なんて…言えるわけねぇだろ…)
(いやじゃない、って言ってくれなかったな…)







あとがき(memo11/17)
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