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□short
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※キス描写あり。










読んでいた漫画を閉じてこたつ机の上に置き、かじかんだ手をこたつの中へと突っ込む。
そんなヒロインの様子を横目で見ながら八田はガチャガチャといわせながら携帯ゲームをする。
ゲームの音以外には時折電車の音が聞こえる程度の、静かな空間に二人はいた。
具体的にいうならば、ヒロインの家だ。
ヒロインが、はーっと喉の奥から暖かい息を出す。
吐き出された息に含まれる水蒸気はすぐさま集まって水滴の粒となり、空間を白く染め上げた。

「寒いね」

「おう」

ヒロインがこたつの中で身動ぎする。

「暖かいね」

「おう」

短いやりとりに満足したのか、ヒロインが、ふふ、と嬉しそうに笑った。
自然と八田の口角も上がる。

静寂。

ヒロインが足を伸ばして、向かいにいる八田の足裏に彼女の足裏をぺたりと合わせた。
視線は、ゲームに夢中になっている八田を、じーっと捉えている。
足先を曲げてわきわきと動かしてみる。
八田の口元がくすぐったそうにひくついた。
ゲーム画面に釘付けな八田の視界には映らないが、ヒロインの口元が、にやーっと嬉しそうに弧を描く。
ヒロインが足の親指の先で引っ掻くように八田の足裏をついーっと辿るようにくすぐった。
たまらず八田はゲームをポーズ画面にして中止する。
同時に胡座をかいて足裏への攻撃を防ぐことも忘れない。
抗議するように軽く睨みつければ、ヒロインはだらしなく顔をにやけさせた。

「…なんだよ」

「えへへ、なんでも」

軽く溜息を吐いて、八田が再開しようとしてゲーム機に手を伸ばす。
それを邪魔するかのようにヒロインが八田の足を彼女の足先でするすると撫でた。
八田が、ごくり、と唾を飲んで、下方で彷徨っていた視線がゆるゆると上方へと上がりヒロインを捉える。
熱っぽい視線が絡んだ。
年齢の割に幼く見られがちな少年らしさを残すその顔立ちの八田の瞳に、獰猛な雄の色が挿したことにヒロインは気付いた。
ぞくり、と何かが背筋を撫でる。

ゲームをする気を完全に削がれたらしい八田は、ヒロインの方へとこたつを出て回り込む。
流れるような動作で屈んで顔を傾けてヒロインに口付ける。
ふわり、と優しい唇の感触がした。
バードキスを繰り返して唇の感触を楽しむ。
若干背を逸らすように座っているヒロインが体を支えるために付いている手に、八田が手を重ねて優しく撫でる。
八田の親指がするするとヒロインの手の甲を行き来する。

ヒロインの下唇に軽く吸い付いたあと、べろりと舐め上げた。
八田が大きく息を吸い込んで吐く。
八田の熱い吐息が顔に掛かりじわじわとヒロインを追い詰めていく。
自分の息が八田の顔に掛かるのが恥ずかしくて上手く呼吸ができないヒロインは、どんどん息が上がってしまう。
苦しくなって、鼻から抜けるように、んん、と声を上げたヒロインに、八田は軽くリップノイズを立てながら彼女を解放する。

人前では手を繋ぐことすら躊躇する八田がリップノイズなんか立てながらキスするところなんて、きっと彼女くらいしか知らないだろう。

息の上がりきっていたヒロインは大きく荒い呼吸をして肺へと空気を叩き込んだ。

ヒロインの手の甲を撫でていた八田の手が、するすると腕を撫でながら上がっていき、たどり着いた肩を優しく掴む。
そのまま、ゆっくりと押し倒していく。
視界が傾き、彼に少しでも負担を掛けないように腹筋に力を入れてゆっくりとカーペットへ背をつけた。
馬乗りになった八田は、ヒロインの顔のすぐ横へ囲うように腕をついて覆い被さる。
顔を傾けて、ぐいっと口付ける。
体勢を利用して上からぐいぐいと唇を押さえつけられる。
互いの鼻が頬に引っ付いて、恥ずかしい。

ずるり、と唇の割れ目を熱い舌が撫ぜて、早く中に入れさせろとせっつく。
熱に浮かされてゆっくりと唇を開くとぬるりと舌が入り込んだ。
舌の腹を撫でられて、思わず鼻から声が出そうになるもなんとか堪えて息だけを吐き出す。
内蔵がくすぐったいような、この感覚にはどうにも慣れない。

ぬるり、と口内を移動した八田の舌は、確かめるように歯列を撫でていく。
奥歯や犬歯のあたりで舌を扱くようにしつこく舐められる。
口内に溜まった唾液が、舌が移動した際に、くちゅ、と厭らしい音を立てる。
合わさった唇の隙間から、ほあ、とヒロインの熱い息が漏れた。
口端から頬を伝って重力に従うように、つうっと唾液が垂れた。
室内の気温に晒されたそれはすぐに冷えて、熱くなった頬の上でありありとその存在を知らしめる。
カーペットまでたどり着かずに中途半端な位置で止まったのは、きっと髪にでも付着したんだろう。
気持ち悪く張り付く髪を気にしている余裕すらないほど、互いの息を求め合う。
どうにもこうにも息が苦しくて今すぐ酸素を取り込みたいはずなのに、なぜかヒロインの腕は八田の頭部へ絡みついて引き寄せる。
ぐりぐりと押さえつけるように舌が絡む。
溜まった唾液を、ちゅ、と音を立てて口内に取り込んで、自分のものとも八田のものとも分からなくなってしまったそれを飲み下す。
八田が、は、と息を吐き出しながら唇を離した。
熱に浮かされた視線が絡まる。
嬉しそうに戦慄いた口元と、獰猛な獣のような光を宿した瞳のコントラストに、飲み込まれる。


ヒロインの耳裏へと八田が唇を寄せたとき、端末のコール音が鳴り響いた。
一気に場の空気は冷め、ぴたり、と動きを止めた八田は緩慢とした動きで端末へと手を伸ばす。
着信相手を確認すると、通話を始めた。

「…はい、…はい、は、え、今日!?今からっスか!?」

通話相手は多分バイト先なのだろう。
申し訳なさそうに意見を求めてこちらに視線を投げかけてきた八田くんに、いいよ、と笑顔で告げる。

「あ、いや、大丈夫っス。はい、了解っス」

通話を切った八田は、はーっと盛大に溜息を吐いた。
ヒロインへと視線を向けて、ワリ、と一言謝罪する。

「おあずけだね」

にへら、と嬉しそうに言い放ったヒロインに、続きを求めてもらえる嬉しさを感じつつも、笑っていられる余裕すらなくなるくらいに鳴かせてやろうと、ずくり、と不穏な感情が揺らめいていた。









あとがき(memo1/26)
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