dream ather
□誕生日
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深く溜息を吐いて深呼吸をする。
今日は実習にバイトに随分と忙しい日だった。
これからレポートもある。
机の上に置いたままの買ってきたばかりの漫画に目をやり、ほんの少し顔を綻ばせる。
やることが終わったら読むために、自分へのご褒美として買ってきたのだ。
とはいっても漫画程度のご褒美ではやはりレポート作成の憂鬱の方が優ってしまう訳で。
面倒くさいなあと思いながらも仕方なく取り掛かった。
熱心にレポートに取り組んでいると、電話が掛かってきた。
ディスプレイを確認すると八田くんからだった。
「もしもし」
「俺だけど。外、見てくんね?」
不審に思いながらも窓から外を覗く。
辺りを見回してみると、自宅マンション前で八田くんがこちらを見上げながら立っているのが目に入った。
驚いてすぐさま顔を引っ込めて上着を引っ掛ける。
「えっ来てたの、ごめん、すぐ行く」
「あっいや、いい、その、」
慌てながら歯切れ悪そうに八田くんが話す声が携帯越しに届く。
「誕生日だろ、今日。おめでとう」
はっとして時計を見てみると時刻は深夜0時を回ったところだった。
「その、それが言いたかっただけだから。じゃ、」
「えっちょっと待って、せっかくだし上がっていきなよ」
「はっ!?お前、今が何時だか分かってんのか!?」
こんな時間に押しかけてきたくせにいきなり八田くんは焦り始める。
「こ、こんな時間に男を部屋に上げるなんて、しかも、か、彼氏だぞ!お前、女なんだからちゃんと考えろよ!」
「えっうん、いいじゃん彼氏なんだし」
「よくねえだろ!その、お、男が、女の部屋に…」
八田くんの声は尻すぼみになって、ついに聞こえなくなってしまった。
窓からこっそり様子を窺うと、顔を真っ赤にして俯いていた。
ニット帽から覗く耳が赤い。